小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第22話 愛しい幻(5/6)




 シャオレイは、ヤン家の広間で出迎えられた。

 ヤン夫人と嫡男《ちゃくなん※》のヤン公子《こうし※※》は、ほほ笑んで彼女に挨拶をした。 [※嫡子の長男][※※貴族の子息]

 だが、場の空気はどこか冷たい。
 特に、ヤン公子の妻や年若い弟妹たちは、さげすむような視線をシャオレイへ向けていた。

 正室を脅かす者。
 男を手玉に取る女。

 そんな声が、シャオレイに聞こえてくるようだった。だが、シャオレイは気に留めなかった。
(青楼時代に飽きるほど浴びたわ)



 シャオレイは、ヤン公子の案内でヤン当主の寝殿を訪れた。

 ヤン家の者たちも、ぞろぞろと付いてくる。

 広々とした室内には、薬の匂いが漂っていた。

 ヤン当主はやつれた顔で寝台に横たわり、ぼんやりと天井を見つめていた。

 その姿に、シャオレイは胸が締め付けられた。
(前世のゼフォンも、こんな感じだったわ……)
 シャオレイはこみ上げた涙をこらえて、ヤン当主に言った。
「初めましてヤン殿。お加減はいかがでしょうか?」

 ヤン当主の目はゆっくりとシャオレイを捉えたあと、わずかに見開かれた。
 その反応を見て、シャオレイは立ち上がった。そして、深く息を吸い込み、静かに歌い始めた。

「……大風を渡り 星のひとすじ……
……雲間の光 たどりゆき……
……やすらぐ春は この胸に……」

 夜の静けさを思わせるシャオレイの旋律が、部屋を満たす。

 ヤン当主は、シャオレイの声に導かれるかのように、上半身を起こした。

 シャオレイに冷ややかな目を向けていたヤン家の者たちも、聞き入っていた。

 そして、最後の一節が消えたとき――一瞬静けさが広がった。それから、一斉に拍手が沸き起こった。偽りのない、心からの称賛だった。

 ヤン当主の目には、涙がにじんでいた。

 シャオレイはほほ笑みながら、ヤン当主へ静かに問いかけた。
「……お気に召しましたか?」

 ヤン当主は、かすれた声で「ミャオラン……」とつぶやいた。それは、亡き側室の名だった。
 ヤン当主は、遠くを見つめていた。――まるで、愛しい幻を探すように。

 シャオレイはそれを見て、胸が熱くなった。
(私が命《いのち》を終えたとき、ゼフォンもこうしてくれるかしら……)

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