小鳥の爪―寵姫は2番目の恋に落ちる―
第2話 運命の出会い(2/5)




 瑶吟堂《ようぎんどう》からそう離れてはいない、さびれた庭の物置の中に、シャオレイはいた。周りには古びた木箱や壊れた陶器、使われなくなった家具が無造作に積まれている。

 シャオレイは手にした提灯のあかりを頼りに、ほこりまみれの空間を進んだ。
(ここで皇后を襲った刺客は捕らえられ、処刑された。
その前に彼を助けて、協力者になってもらうわ)

 突然、音もなく背後から伸びた冷たい手に、シャオレイの口が塞がれた。同時に、喉元に短刀の刃が押し当てられる。
 その相手は、フェイリンだった。

 シャオレイは恐怖しつつも、歓喜に踊っていた。
(やっぱり……!私が3年前に戻っていることは、確かなんだわ……!
そしてこの人が私の剣になってくれる人……!)

 シャオレイは「私はあなたの味方です……!」と、言葉を絞り出した。耳元で響くフェイリンの荒い息遣いに震え上がるも、畳みかける。
「皇后を討つ覚悟は私にもあります……だから手を組んでください。
私は予言ができるゆえ、お役に立てますわ……必ず。
それに、このままここにいるとあなたは命を失い――」

 刃がシャオレイの喉に食い込みそうになった瞬間――彼女の額の小鳥が、まばゆい金色の光を放った。

 フェイリンは後ずさり、思わず「妖女《ようじょ》……!?」と口にした。

 シャオレイは急いで離れて、ハッタリを言った。
「良くお分かりですわね……私を殺したら、あなたには呪いがかかりますのよ。
全身の痛みにのたうち回り、死ねなくなります」

 短刀を構えたフェイリンと、シャオレイのにらみ合いが続いた。
 フェイリンの口元は布で覆われていて、紫水晶のような瞳がシャオレイを射抜いている。結い上げられているフェイリンの髪は、闇に溶けるような漆黒で、所々乱れていた。

 シャオレイは生きた心地がしなかったが、フェイリンに気づかれないように、自分の体の震えを必死で抑えていた。
(ゼフォンを救うためには引き下がれないわ……!)

 ――このとき、シャオレイはまだ知らなかった。
 フェイリンが自分の生涯を変える男となることを。

 やがて、フェイリンは息をつき、短刀を鞘へ静かに収めた。

 それを停戦の合図と受け取ったシャオレイは、ほほ笑みを浮かべた。同時に、額の小鳥もふっと光を失った。
「さあ行きましょう」

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