小鳥の爪―寵姫は2番目の恋に落ちる―
第2話 運命の出会い(3/5)
◆
瑶吟堂の蔵で、シャオレイは傷ついたフェイリンを迎え入れた。
「私はシャオレイと申します。皆にはカナリア姫と呼ばれておりますわ。――あなた様は?」
フェイリンは黙ったまま、シャオレイを鋭い目で見た。痛みと興奮のせいなのか、彼の息はまだ荒い。
シャオレイは気を取り直して、彼の脇腹に薬を塗り始めた。
(刺客ってもっと歳上かと思ってたわ。私とあまり歳は変わらないみたい)
シャオレイのつややかな髪が、提灯のあかりに照らされて揺れ動いていた。まつげの影は瞳に落ち、その唇は愁いを帯びていた。
フェイリンは、それを冷ややかに見つめていた。
(この女、権力争いでもする気か。
俺は、くだらんことに巻き込まれるつもりはない)
不意に、フェイリンは傷の痛みに顔をしかめる。
すかさずシャオレイが、傷口へふーっと甘い息を吹きかけた。
その吐息に肌を優しく撫でられ、フェイリンの胸の奥がかすかに震える。彼はわずかに目を伏せながら、シャオレイをそっと押しのけた。
「……よせ」
それだけで、シャオレイにはフェイリンの困惑が伝わった。
(刺客にも効くのね)
男は、こういう仕草に弱い――シャオレイが青楼で学んだことだ。
彼女は歌妓で、月に数人の客と寝ていた。
(彼に協力してもらうためなら、体を差し出す覚悟はできてる。
でも……心はゼフォン以外には渡さないわ)
シャオレイは薬箱を閉じて言った。
「先ほどのお話ですが……私に協力させてくださいませ。決してあなた様に危害は加えません」
フェイリンは「そのうち兵が突入してくるんじゃないのか?」と、冷ややかに笑った。
シャオレイはお構いなしに歌い始めた。
「7年5の月17日……つむじ風に鶴はさらわれるも、龍の御許《みもと》に帰りきたり――
19日……天の赤き涙、宮を濡らす――
23日……遠き国より迷いし使い、門《かど》叩く――」
フェイリンに眉をひそめられながら、シャオレイは歌の解説をした。
「――これは”妖女”の予言ですわ」
(前世の出来事をただ並べただけだけど、誰もこのことを知らない)
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瑶吟堂の蔵で、シャオレイは傷ついたフェイリンを迎え入れた。
「私はシャオレイと申します。皆にはカナリア姫と呼ばれておりますわ。――あなた様は?」
フェイリンは黙ったまま、シャオレイを鋭い目で見た。痛みと興奮のせいなのか、彼の息はまだ荒い。
シャオレイは気を取り直して、彼の脇腹に薬を塗り始めた。
(刺客ってもっと歳上かと思ってたわ。私とあまり歳は変わらないみたい)
シャオレイのつややかな髪が、提灯のあかりに照らされて揺れ動いていた。まつげの影は瞳に落ち、その唇は愁いを帯びていた。
フェイリンは、それを冷ややかに見つめていた。
(この女、権力争いでもする気か。
俺は、くだらんことに巻き込まれるつもりはない)
不意に、フェイリンは傷の痛みに顔をしかめる。
すかさずシャオレイが、傷口へふーっと甘い息を吹きかけた。
その吐息に肌を優しく撫でられ、フェイリンの胸の奥がかすかに震える。彼はわずかに目を伏せながら、シャオレイをそっと押しのけた。
「……よせ」
それだけで、シャオレイにはフェイリンの困惑が伝わった。
(刺客にも効くのね)
男は、こういう仕草に弱い――シャオレイが青楼で学んだことだ。
彼女は歌妓で、月に数人の客と寝ていた。
(彼に協力してもらうためなら、体を差し出す覚悟はできてる。
でも……心はゼフォン以外には渡さないわ)
シャオレイは薬箱を閉じて言った。
「先ほどのお話ですが……私に協力させてくださいませ。決してあなた様に危害は加えません」
フェイリンは「そのうち兵が突入してくるんじゃないのか?」と、冷ややかに笑った。
シャオレイはお構いなしに歌い始めた。
「7年5の月17日……つむじ風に鶴はさらわれるも、龍の御許《みもと》に帰りきたり――
19日……天の赤き涙、宮を濡らす――
23日……遠き国より迷いし使い、門《かど》叩く――」
フェイリンに眉をひそめられながら、シャオレイは歌の解説をした。
「――これは”妖女”の予言ですわ」
(前世の出来事をただ並べただけだけど、誰もこのことを知らない)