小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第26話 一掃された湿り気(3/3)




 翌日の昼過ぎ、シャオレイは寺院から戻ってきた。さっそく瑶吟宮《ようぎんきゅう》の琴房にこもり、使節団をもてなす宴の演出を練っていた。

 その様子を、物陰から宦官姿のフェイリンが見つめていた。
 フェイリンは昨日の出来事を、頭の中で延々と再生していた。

 シャオレイの、熱に浮かされた顔。
 乱れた髪。
 吐息の熱。
 衣の下のほてった肌。
 押し当てられた肉の柔らかさ。
 そしてなにより――自分の喉を見つめてきた、あの目。色と飢えが混ざった、捕食者のまなざし。

(あのとき、ほんの少しでも気をゆるめていたら、俺は間違いなく――あの場でシャオレイを抱いていた)
 夜がくればフェイリンの胸の奥は疼き、目を閉じればシャオレイの瞳と唇が浮かぶ。
 フェイリンは頭を振った。
(――くだらない。
そんなものは、ただの情欲だ。
仇討ちの邪魔にしかならない)
 だがシャオレイは、フェイリンをこの世界に繋ぎとめる枷になってしまった。
 仇討ちを果たしたら終わり――そう諦観していたフェイリンの喉に、小鳥のくちばしが食い込んでいる。

 そっと琴房に入ってきたフェイリンに、シャオレイが気づいた瞬間、その声が弾けた。
「兄さん!」

 フェイリンの心臓が跳ねる。

 シャオレイのさっぱりした笑顔。すがすがしいまなざし。フェイリンの手を取る仕草には、なんの湿り気も含まれていなかった。
「昨日は助かったわ。兄さんのおかげよ、ありがとう」
 あれほどフェイリンを誘い、挑発して、理性を揺さぶった女は、もういない。そこにいるのは――義兄に信頼を寄せる義妹だった。

 フェイリンの胸に、冷たいものが落ちる。
 フェイリンがどれほどの情欲を抱いても、シャオレイはもう、彼を男として見ることはないのだ。
(――俺が本当に欲しいのは、義兄としての立場だったのか……?)
 フェイリンは一瞬、自分に問いかけそうになって――即座に思考を切り捨てた。感情に触れれば、足を取られる。だからフェイリンは、自分の渇きと焦燥に目を向けない。
 それから、いつものように無表情で口を開いた。
「――俺の指定する者を、今から集めてこい」

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