小鳥の爪―寵姫は2番目の恋に落ちる―
第2話 運命の出会い(4/5)


 それからシャオレイは、フェイリンへ水と焼餅《やきもち※》を差し出した。 [※中華風の平焼きパン]
「どうぞお召し上がりください。……毒など入っておりませぬゆえ、ご安心を」

 シャオレイが毒味をしてみせても、彼の表情は変わらないままだった。

「――今後の話は、明日いたしましょう。
誰も来ないよう、暴れ猫を拾ったことにしておきますので、ごゆっくりお休みくださいませ」
 それからシャオレイは毛布を渡したが、フェイリンは受け取らなかった。シャオレイは諦めてそれを床に置き、蔵から出て行った。

 シャオレイが去った後、ふとフェイリンは自分の左手を見た。
(血か……?いや)
 物置でシャオレイの口をふさいだときに、付いた口紅だった。不意に、彼女の甘い吐息がよみがえる。
 フェイリンは、ごしごしと乱暴に手を拭いた。
(――妖女の罠だ)



(予言を”暴れ猫”が信じてくれるといいけど…)
 シャオレイは、心配しながら寝所に戻った。

 すると、侍女のシンルイが飛んできた。
「姫様、またおひとりで散歩に行っていたのですか!?先ほど華宵宮に刺客が入ったのですよ!」

 シャオレイは、すかさずおびえた表情を作って「まあ……!皇后殿下はご無事なの?」と言った。

「はい。ただ刺客は取り逃がしたそうですので、ご用心を。
陛下がすぐに見張りの兵を増やしてくださいました」

「そう……ゼフォンが……」

 シャオレイの胸が温かくなる。そばにいなくても、ゼフォンが自分のことを気遣ってくれるのが嬉しかった。

 シャオレイはシンルイへ伝えた。
「そういえば、さっき猫を拾ったわ。
凶暴な猫だから、蔵に入れたの」

「またでございますか?」

「前の子は逃げてしまったから、今度こそ飼いならしたいの。
誰にも蔵へ近づけさせないでね。
――もちろんあなたも、近寄ってはダメよ」

「かしこまりました」

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