小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第29話 死線上の恋(4/5)




「助けが間に合わないこともある」
 フェイリンは、過去を噛み締めるように低く呟いた。

「私は生き延びてみせるわ」
 シャオレイは静かにほほ笑んで、誓った。

 だが、フェイリンにはシャオレイが気がかりだった。
(ダン・ゼフォンは、シャオレイを寵愛している。
それは事実だ。
だが、永遠に続く保証はどこにもない。
皇帝とは、最も強く冷酷な存在。
どれほど愛した妃であろうと、政局が変われば切り捨てる。
冷宮に送られるか、自害を命じられるか――後宮というのは、そういう場所だ。
シャオレイは、恋の熱に浮かされているだけだ……)

 フェイリンは、息をついた。
「――俺は今夜、発つ」

「もう?」

 フェイリンは、懐から細長い包みを取り出して開いた。すると、中からかんざしが現れた。
 それは、以前に宮女たちに与えたものよりも、ひときわ繊細な彫りが施されていた。

 フェイリンはシャオレイの髪へ手を伸ばし、指先で髪を整えながら、かんざしをそっと挿した。
「いざとなったら、これでためらわず刺せ。――いいな?」

「分かったわ」

 それから、フェイリンは優しくシャオレイを抱き寄せた。
 シャオレイの髪の香りを胸いっぱいに吸い込んだ瞬間、フェイリンが押し殺してきたものがあふれた。

 フェイリンは、きれいごとでごまかす自分に、ようやく気づいた。
(ダン・ゼフォンがシャオレイの純潔を疑っていると察したとき――俺は、心の底で喜んでいた。
“やっぱりお前は、そういう男だ”と。
”シャオレイが俺のものにできるかも”と。
――なんて男だ、俺は……)

 さびしげなシャオレイを見て抱いたフェイリンの胸の痛みは、罪悪感ではなく、シャオレイの感情に共鳴しただけだった。

 フェイリンは、シャオレイの髪に顔を埋めながら、目を閉じた。
 焚き染めた香にまじり合っていたのは、生きているシャオレイの匂いだった。
 それがフェイリンの情欲を呼び覚ます。

(――俺のほうが、よほど恋の熱に浮かされている。
分かっているのに、止められない。
兄として慕ってくれるシャオレイを、守るだけじゃ足りない。
男として求めてくれるシャオレイを、抱きたい。
シャオレイの心ごと、すべて俺のものにしたい。
――明日にも死ぬかもしれないんだ。俺も、シャオレイも)

 腕の中のシャオレイが呼吸をするたびに、フェイリンは熱を帯びていく。だが――彼は唇をかみしめた。
(俺は、一族の仇討ちを成し遂げるために生きてきた。
この女を手に入れることとは――両立できん)

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