小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第29話 死線上の恋(5/5)


 シャオレイは、フェイリンのただならぬ気配に気づいていた。
 シャオレイの髪に、そっと風が触れている。フェイリンの吐息だ。女として整えられた香りを、フェイリンが感じ取っているのが、シャオレイに伝わった。

 シャオレイの背中を包むフェイリンの腕が、熱い。フェイリンの鼓動が、じんわりとシャオレイへ伝わってくる。
 フェイリンに抱きしめられるのは、守られているというより飲み込まれそう――そんな感覚だった。

 シャオレイが呼吸すると、そこにあったのはフェイリンの衣《ころも》にしみ込んだ、陽の香りだった。その奥にかすかに混じる、苦く澄んだ薬草の香り――それは安らぎにも似ていた。

 フェイリンの胸に頬を寄せたまま、シャオレイはそっと目を伏せた。
(……最後の夜だから、こうしてるのよね)
 これはただの別れの抱擁――シャオレイは、そう思いたかった。でも、シャオレイの肌に伝う熱さが、どこか違うとささやいていた。

 シャオレイがそっと顔を上げると、彼女のつややかな唇がフェイリンの目に入った。だが、フェイリンはそっと顔をそむけた。
「……絶対に生き残れ」

「うん」

「絶対だ」

 言葉の重さに、シャオレイはただならぬものを感じた。胸にじわりと不安が広がる。
「兄さんもね……必ず生きて戻ってきて」

「ああ……」

 フェイリンは、もう一度シャオレイの髪に頬を寄せ、香りを吸い込んだ。決して忘れまいとするかのように。
(俺は義兄をやめることはできない――)

 油灯のほのかなあかりに、フェイリンから贈られたかんざしが鈍く光っていた。

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