小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第30話 染み入る雫
第30話 染み入る雫(1/6)
◆
9月も終わりかけの澄んだ星空に、虫の声が響いていた。
大広間の絨毯を挟んで向かい合う客席には、リャオ国の使節団と、ゼフォンの臣下たちが座っている。
高座には、ゼフォンとメイレンが並んで座っていた。
楽師の演奏が始まり、舞台中央で歌姫が舞いながら歌い出す。
使節のひとりが「市井の芸人のようだ」とこぼしたのもつかの間、場の空気が変わった。
次々と入れ替わる歌姫たちの節回しと、舞姫たちの添える歌声が広がっていく。拍子に合わせて動く者たちは、誰ひとり乱れない。
やがて歌舞は終わり、広間に拍手が湧いた。
「一糸乱れぬとは……」
「よく仕込まれているな」
使節団の顔には、驚きがにじんでいた。
ゼフォンは彼らを見たあと、臣下たちの表情を見た。彼らもまた拍手をしている――笑みの下に苦みを隠して。
ゼフォンは小さくほほ笑んだ。
(これであやつらも、カナリアを認めるであろう)
広間の控室で舞台を眺めていたシャオレイにも、拍手が届いていた。
(良かった……ゼフォンの役に立てたわ)
帳《とばり》越しに高座をそっと見たシャオレイに、ゼフォンがほほ笑みを飛ばした。
その瞬間、シャオレイの胸は跳ねた。
名を呼ばれたわけでもない。抱きしめられたわけでもない。――ゼフォンの目が、自分だけを見ていた。
そのことが、シャオレイには何よりの贈り物だった。
(臣下たちに気づかれたら大変なのに……私を見てくれた)
メイレンは盃を傾けながらも、さりげなくゼフォンの様子をうかがっていた。
(カナリアへの寵愛はまだ薄れておらぬか。
だが、カナリアはとっくに月のものを迎えたのに、それでも召さぬとは……。
それはきっと、臣下が疑っているからであろう。
――”カナリア妃は傾国《けいこく※》ではないか”とな。
ならば、おそらく今宵も召さぬだろう) [※色香で君主を惑わして国を傾ける美人]
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9月も終わりかけの澄んだ星空に、虫の声が響いていた。
大広間の絨毯を挟んで向かい合う客席には、リャオ国の使節団と、ゼフォンの臣下たちが座っている。
高座には、ゼフォンとメイレンが並んで座っていた。
楽師の演奏が始まり、舞台中央で歌姫が舞いながら歌い出す。
使節のひとりが「市井の芸人のようだ」とこぼしたのもつかの間、場の空気が変わった。
次々と入れ替わる歌姫たちの節回しと、舞姫たちの添える歌声が広がっていく。拍子に合わせて動く者たちは、誰ひとり乱れない。
やがて歌舞は終わり、広間に拍手が湧いた。
「一糸乱れぬとは……」
「よく仕込まれているな」
使節団の顔には、驚きがにじんでいた。
ゼフォンは彼らを見たあと、臣下たちの表情を見た。彼らもまた拍手をしている――笑みの下に苦みを隠して。
ゼフォンは小さくほほ笑んだ。
(これであやつらも、カナリアを認めるであろう)
広間の控室で舞台を眺めていたシャオレイにも、拍手が届いていた。
(良かった……ゼフォンの役に立てたわ)
帳《とばり》越しに高座をそっと見たシャオレイに、ゼフォンがほほ笑みを飛ばした。
その瞬間、シャオレイの胸は跳ねた。
名を呼ばれたわけでもない。抱きしめられたわけでもない。――ゼフォンの目が、自分だけを見ていた。
そのことが、シャオレイには何よりの贈り物だった。
(臣下たちに気づかれたら大変なのに……私を見てくれた)
メイレンは盃を傾けながらも、さりげなくゼフォンの様子をうかがっていた。
(カナリアへの寵愛はまだ薄れておらぬか。
だが、カナリアはとっくに月のものを迎えたのに、それでも召さぬとは……。
それはきっと、臣下が疑っているからであろう。
――”カナリア妃は傾国《けいこく※》ではないか”とな。
ならば、おそらく今宵も召さぬだろう) [※色香で君主を惑わして国を傾ける美人]