小鳥の爪―寵姫は二番目の恋に落ちる―
第2話 運命の出会い(5/5)




 その後、シャオレイは寝台でうとうとしていた。
(ゼフォン……今夜だけは、あなたの胸の中で眠りたかったわ。
でも“暴れ猫”を捕まえなくちゃいけなかったから……)

 シャオレイは、そっと額の小鳥を撫でた。
(二度もこの小鳥に助けられたわね……。
きっとあの方は、仙人様だったんだわ)

 シャオレイは昔のことを思い出しながら、眠りに落ちていった。



 シャオレイがその老人に会ったのは、10年前のことだった。

 12歳のシャオレイは、青楼の小間使いだった。
 シャオレイが店の遣いを終え、路地裏に入ると、通行人に蹴られている老人が目に入った。うずくまる老人に駆け寄ると、食べ物を求められた。

 彼はぼさぼさの白髪《しらが》に長くて白いあごひげで、服は薄汚れて擦り切れていた。

 シャオレイは気の毒に思い、懐《ふところ》を探って小さな焼餅を渡した。

 老人は目を細め、ゆっくりと口に運ぶ。

 シャオレイは水を入れた茶碗を、店から持って来た。しゃがんで仙人に水を差し出し、彼のあごひげを珍しそうに見つめる。

 老人は水を飲み干すと満足そうにうなり、言った。
「1曲歌ってくださらんか?」

 シャオレイが歌い出すと、路地裏に澄んだ声が響いた。

 老人は目を閉じ、しばらく耳を傾けていた。

 シャオレイが歌い終えると、老人は立ち上がった。彼女の額へ人差し指を置き、そっと肌をなぞった。
 老人は指を離して「そなたの願いを叶えてくれるまじないだ」と、告げた。

 シャオレイの額には、小鳥の紋様が描かれていた。

 やがて、老人は杖をつきながらゆっくりと去っていった。

 にぎやかな人混みに消えていくその姿を、シャオレイは不思議そうに見送っていた。
(”まじない”――ほんとかしら?)

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