小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第30話 染み入る雫(5/6)



 揺吟宮《ようぎんきゅう》の寝所のあかりはほのかに落とされ、静けさが部屋を包んでいた。

 侍女たちは寝衣に着替えたシャオレイに頭を下げて、部屋を出て行った。

 残されたミアルがシャオレイにそっと近づき、声をひそめた。
「妃様。今宵の舞台……あまりにも、見事すぎました」

 シャオレイは首を傾げた。
「それが、何か?」

 ミアルは小さく息をついてから、言葉を続けた。
「――妃様があれほどの采配をなされば、誰もが黙ります。
ですが……黙る代わりに、見定めようとします」
 その声に、静かな警戒がにじんでいた。

 シャオレイは、眉を寄せた。
 シャオレイの脳裏によみがえったのは、頬に触れたゼフォンの手のぬくもり。そして、シャオレイの額にだけ落とされたあの口づけ――そこでようやく、思い当たった。

 七夕の宴の夜、ゼフォンがシャオレイのために刺客を逃がしたこと。その一件で、重臣たちの不興を買ったことを。

(ああ、そういうこと……。
――ゼフォンが夜伽を自粛しているのも、当然だわ)
「ありがとう、ミアル。
気づかせてくれて……」
 ミアルは、小さく頭を下げた。

 シャオレイはトボトボと、隠し部屋へ入った。寝台に腰をかけ、息をつく。
 シャオレイには、悔しさと恥じらいがこみ上げていた。
(気づかなかった……あんな簡単なことにも。
ゼフォンを守ると心に誓って、爪を研いでいたのに……)
 シャオレイは髪からそっと、フェイリンから貰ったかんざしを抜く。
 それをまじまじと眺めているうちに、かつて彼からかけられた言葉がよみがえる。

『シラサギくらいには成長したな』

 シャオレイは苦笑いした。
(偉そうだけど……お世辞じゃないわ。
そんな気取ったことできないものね、兄さんは)

 シャオレイは布団にくるまり、枕元に置いたかんざしへそっと笑みを向けた。
(兄さん……私はこれからも、さえずるだけの小鳥を演じるわ。
鳥籠のなかで、ゼフォンのために舞って歌うの。
それが、私の役目……)

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