小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第30話 染み入る雫(6/6)




 同じ頃の、都の郊外。その林の奥にある打ち捨てられた旧家に、ほのかにあかりがともっていた。そこは、リーハイ直属の私兵団の仮拠点だった。

 屋敷の奥まった部屋には、埃とむせ返るような汗と獣臭に満ちた中、私兵たちの寝息が低く響いていた。いびきも、寝言もない。彼らは生き残るために、眠りさえ制御してきた。
 彼らは、軍にも入れず、家名も捨てざるを得なかった。だから、リーハイの命《めい》だけを信じて動くしかない。
 私兵たちにとって、ここは最後の居場所だった。

 そこにフェイリンもいた。5年以上前から潜入していた、フェイリンの協力者――経理係の導きだった。
 フェイリンは、藁を敷いただけの寝床に粗末な布をかぶって、身を丸めていた。彼のてのひらには、小さな手巾があった。その中には、かつてシャオレイから処分を頼まれた、耳飾りとかんざしがある。
 フェイリンは目を閉じて、薄れかかった白檀と梅の香りを、手巾越しに吸い込んだ。それを胸元に抱いたまま、音のない眠りへと沈んでいった。

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