小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第33話 見射る瞳(4/7)


 ジュンは低く笑った。
「日頃から俺に突っかかってきたからな……徹底的に打ちのめしてやった」

「最初に、彼の右手首に刃を当てましたね。
でもあれは、降伏させるためだった。
負けを認めれば終われるという――あなたの恩情です」

「……そこまで覚えてるのか」

「なのに彼は、それを無視した。
だからあなたは、太ももに刃を当て、戦闘不能だと彼に示した。
でも……無謀な勇者様はわずかによろめいただけで、もう一度踏み込もうとした。
次にあなたの刃は、彼の首すじに触れた。
――そこでようやく、彼は自分が“死んだ”ことを理解したのです。
”処刑”が終わり、あなたは立ち去った。
崩れ落ちる彼を、振り返ることもなく」
 ミアルは、うっとりとため息をついた。
「見事な勝ちでした。
……でも、誰も拍手をしませんでした。
静かな空気だけが流れていたのを、覚えています。
私は日記に書きとめました。
“勝ち方が静かすぎる。派手さはないのに、誰より恐ろしい”――と」

 いつのまにか、ジュンは真剣に聞き入っていた。
(そうだ。
あのとき、誰の目にも勝利の喜びはなかった……解《げ》せん)

 代わりにあったのは、“理性の無い獣”という、ジュンへの恐れだった。
 ジュンの兄や父は、「取るに足らない、子供のお遊び」と、冷ややかだった。メイレンは「そんなことより、早く首のひとつやふたつ狩ってこい」と、あきれていた。
 その日以来ずっと、ジュンの中にくすぶっている想いがあった。
 「なぜ誰も俺を認めない!?」――と

 ジュンは表面上では余裕を装っていたが、内心では焦りが渦巻いていた。
 領地も財産も、将官の座も失い、二度と戦場には戻れない。伯爵の地位は保ったが、今はただの”皇后の弟”でしかない。
 以前は掃いて捨てるほど寄ってきた女も、この頃はさっぱりだ。ジュンの妾《めかけ》たちも、どこかよそよそしい。

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