小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第35話 掟の庭(4/6)


 ゼフォンは、ぽつりとつぶやいた。
「……報酬は、感謝を育てると同時に、欲を招くものだ。
”過ぎたるは及ばざるがごとし”だ。――後宮ではな」

「……!」
 即座に、シャオレイの胸を冷たいものが走る。

 ゼフォンは警告のにじんだ目を、シャオレイに送っていた。

 シャオレイは、ゼフォンにひざまずいた。
「陛下の教え、しかと心に刻みます。
陛下のお気持ちにそむいたつもりはございません。どうか――」
 シャオレイの言葉が詰まる。
「どうか……お見限りになりませんよう……」
 シャオレイが恐れているのは、ゼフォンの怒りではない。彼の愛を失うことだった。

 ゼフォンは、黙ってシャオレイを見つめていた。

 ひざまずくシャオレイは、ぶるぶると震えていた。それは、弁解でも、反論でもなく――懇願だった。

(それほどまでに、予を失うことを恐れているのか……)
 それが、ゼフォンには喜びでもあり――痛ましくもあった。

 ゼフォンは息をついた。それから、シャオレイの手を取り、彼の隣に座らせた。
「……使用人に恵みを与えることは、そなたの優しさだ。
だが、時にはそれが火種になることもある。
――決して忘れるな」
 ゼフォンはシャオレイの肩を抱き、自らの胸にそっともたれさせる。
「妃の位とは、責を背負うことだ。
好きだから、許す。愛しているから、見逃す。
そんな私情で動けば、後宮の秩序は崩れる。
――だが、そなたにそんな道を歩ませるのが……本当に正しかったのかは分からぬ」
 シャオレイの髪を、ゼフォンの指がゆっくりと撫でる。

 シャオレイはようやく安堵し、深くうなずいた。
(ゼフォンは怒ってなんかない……。ただ、牽制したいだけ)

「私……陛下だけのために歌います。
――陛下さえおそばにいてくださるのなら、何もいらないのです……」
 シャオレイは、上目遣いでゼフォンを見つめていた。――まるで、粗相をした愛玩動物が、飼い主の許しを乞うかのように。

「そなたの調べを予が独占するのも、もったいなかろう。
好きに歌えばよい」

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