後宮の小鳥は爪を研ぐ ―転生歌姫の散りゆく愛と芽吹く愛―
第3話 暴れ猫と刺客(2/5)


 突然、メイレンの宮女が知らせを持ち込んできた。
「突風で池の鶴がすべて飛び去ってしまったのですが、陛下が池へご様子を見に行ったら、鶴がすぐに戻ってきたのでございます。
きっと瑞祥《ずいしょう》ですわ……!」

 場が湧き立ち、ゼフォンを称える声が響いた。

 シャオレイは密かに満足していた。
(私の予言が当たったわね。
”7年5の月17日……つむじ風に鶴はさらわれるも、龍の御許《みもと》に帰り来たり――”
――そういえば”暴れ猫”は、予言が当たったことを知っているかしら?)

「そういえば、カナリア姫は猫を拾ったそうね……凶暴な」
 メイレンの幼なじみであるシュエン妃の急な問いに、シャオレイの心臓が跳ね上がる。

(なぜ知っているの……?)
 だが、シャオレイは平静を装った。
「――お耳が早いんですね、シュエン妃様は」

 メイレンが興味深そうに口を挟む。
「ならばうちの宮女を貸してやろうか。猫をならすのが得意だぞ」

 シャオレイは動揺を隠しながら、柔らかく断った。



 朝見が終わり、シャオレイは侍女のシンルイと帰っていた。
 その歩みはゆったりとしていたが、彼女の内心は穏やかではなかった。

(”暴れ猫”のことは、うちの限られた使用人にしか言ってない。
第一、刺客の事件が起きたばかりなのに、たかが猫の話が伝わるのが早すぎるわ……)

 急に、シャオレイの背筋を冷たいものが走った。
(まさか内通者《ないつうしゃ※》がいるの!?
……それならきっと、前世にもいたはず。
なのに私は、何も知らずにのんびりと過ごしていた。
――死ぬ直前まで) [※密かに敵側に通じている者]

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