小鳥の爪―寵姫は2番目の恋に落ちる―
第3話 暴れ猫と刺客(3/5)




 瑶吟堂《ようぎんどう》に戻ったシャオレイは、急いで蔵に向かった。
 その途中、シンルイに後ろから呼ばれた。振り向くと、シンルイのそばにいるメイレンの宮女があいさつをしていた。

 シャオレイは凍りついた。
(シンルイが私の断りなく宮女を通すのはおかしい。
それに、どうして宮女がこんなに早く来ているの?
そうか……シンルイがシュエン妃――いえ皇后の内通者ね。
シュエン妃と皇后は幼なじみだもの)

 宮女が申し出た。
「カナリア姫様がお怪我をなさらぬよう、私めを遣わされました。さあ、暴れ猫を」

 断ろうとしたシャオレイを、シンルイが低い声でさえぎった。
「皇后殿下のお心づかいは、お受け取りにならねば」

 シャオレイがシンルイに肩を押さえられている間に、宮女が扉に近づく。

 シャオレイはわずかに不快感を込めて、声をあげた。
「お待ちなさい」

 シンルイはシャオレイに一瞬ひるんだが、手を放さなかった。

 シャオレイは、優雅にふるまう。
「なぜそんなに急ぐのかしら……だってただの猫なのよ?
まるで、暴れ猫が私をとって喰うみたい。
……もしかしたら、本当に化け猫なのかもしれないわね。
だったら宮女じゃなく、方士様を呼んだほうがいいわ」

 シャオレイは冷静を装いながらも、フェイリンへ必死に願っていた。
(私の声が聞こえるでしょう?逃げて!
私が時間を稼ぐから!)

「ああでも……陛下が昨日ご祈祷《きとう》したばかりなのよね。
なのに、こんな不吉なことが起きたと知られたら――」
 シャオレイは少し間をおいて、シンルイの顔に”罰を受けるわよ?”と脅す視線を送った。

 シンルイがようやく手を離したものの、宮女は勢いよく扉を開けてしまった。

 シャオレイを絶望が包んだ。
(終わった――!!)

 だが、次の瞬間――”本物の暴れ猫”が叫び声をあげながら、飛び出していった。

 3人はしばらく呆然としていた。

 いち早く我に返ったシャオレイが、髪を撫でながら淡々と言う。
「ああ…逃げてしまったわ」

 宮女は、悔しさをこらえて頭を下げた。
「申し訳ございません。代わりの猫を今すぐ……」

「もう興味が失せたわ。――シンルイ、もう私に仕えなくて結構よ」
 シャオレイは、ツンと不機嫌そうにふるまって去った。

< 19 / 28 >

この作品をシェア

pagetop