小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第36話 すれ違う夜伽(3/5)




 夜が深まった紫微殿《しびでん》の寝所に、油灯の火がゆらめいている。

 ゼフォンは寝所の奥へ進みながら、何度も呼吸を整えていた。
(今日は……カナリアを祝う特別な夜だ)

 そのとき、部屋の奥の寝台から、静かに立ち上がる女の影があった。それは、蘭の香をまとい、髪の毛から爪の先まで細やかに整えられたシャオレイだった。
 シャオレイは目を伏せて、うやうやしく一礼した。
「陛下……お迎えできて、光栄でございます」

 その声音が、ゼフォンへわずかに緊張を走らせた。彼が測りとったシャオレイとの距離感は、懐かしいがどこか遠い。
 だがゼフォンは、にこやかにほほ笑んでみせた。
「そなたが妃となって迎える、最初の夜だな。
冠も、カナリアの刺繍の衣も、見違えるほど似合っていた。
だが――今のカナリアも美しい……きらびやかな飾りなど無くても、そなたの気品には目を奪われる」

 シャオレイがわずかに頬を染める。

 ゼフォンはくすりと笑って、そっとシャオレイの手をとった。
「カナリア……こちらへ来い」
 4ヶ月の空白など存在しなかったかのように、ゼフォンは理想の夫として、シャオレイを寝台へ導いていった。
 その背すじはまっすぐで、君主の威厳に満ちていた。

 久しぶりの夜伽は、シャオレイにとって渇いた大地へ降る雨のようだった。
「ゼフォン……」
 シャオレイは涙をにじませながら、小さく名を呼んだ。その声は、どこか切なげで、震えている。

「カナリア……嬉しいのか?」

「はい……」

「そなたは予の小鳥。今宵は好きに甘えてよいぞ……」
 ゼフォンはシャオレイをそっと寝台へ押し倒し、唇を重ねた。

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