小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第37話 ねたみの軍旗(2/5)


 ミアルは、さりげなくジュンへ話を向けた。
「そういえば、聞きまして?
ドン監察官が重い病にかかったとか。
視察帰りに倒れたそうですよ。
侍医たちも、お手上げですって」
 無言で眉を上げたジュンに、ミアルは内心ほくそ笑む。
(やっぱりご興味をお持ちになったわ。
ドン監察官は宿敵だから、当然よね)

「……どんな症状だ?」

「高熱が出てうわごとを呟き、幻を見て暴れるそうです」

 ジュンの口の端が吊り上がった。彼の頭には、すべてが浮かび上がっている。
「奴の視察先は?」

「ジュン様が折衝都尉《せっしょうとい》時代に赴任してらした――」

「東北第8駐屯地だろう?」

 愉快そうに即答したジュンへ、ミアルは「そうなんです」と、驚いたふりをした。

「クッ……」
 ジュンは喉の奥から笑いを漏らし、高らかに笑い始めた。肩を揺らし、目を細め、唇の端ににじむ悪意を一切隠さずに。

 その姿を見た瞬間――ミアルの胸にときめきが走った。
(ジュン様は、こんなふうに笑うの……!?)

 誰かを呪いながら笑う男を、ここまで嬉しそうに見る女が、他にいるだろうか。
 ミアルは、その姿をしっかりと目に焼きつけた。あとで観察日記につけるために。

 ジュンはひとしきり笑い、ふっと息をついて真顔に戻った。
「――もってあと3日だな。棺桶の用意をしておくべきだ」

「ジュン様、祝杯をあげましょう。今日は、記念すべき日です」
 ふたりは酒を酌み交わした。

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