小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―

第39話 深夜の睦言《むつごと》

第39話 深夜の睦言《むつごと》(1/2)


 茶屋の一室の窓の外では、風がわずかに鳴いている。

 ミアルは、ジュンの腕の中にいた。ミアルが目を閉じると、まだかすかに体の奥がじんわり熱い。

 ジュンは椅子の上の衣《ころも》をさぐり、小さな布包みを取り出した。それから、中にあった丸薬をミアルの唇に付けて、「飲め」と言った。

 ミアルは素直に口に含み、ジュンに差し出された水を飲んで、薬を喉に流し込んだ。その瞬間、思い出した。
(そういえばこの人、毒の遣い手だったわ――)

 その反応を知ってか知らずか、ジュンは言った。
「避妊薬だ」

「……ありがとうございます」
(本当は、私が用意してきた避妊薬があるけど……)
 ジュンの心遣いに、ミアルに驚きと嬉しさが混じっていた。

 ジュンは何も返さず、またミアルの横に寝そべって腕を差し出した。

 そのたくましい腕に、ミアルはそっと頭を預けた。
 その瞬間、ぎゅっと詰まった筋肉の硬さが、ミアルへ伝わってくる。
 ジュンの上腕は、鋼のようなのにぬくもりがあり、血管が浮いていた。その鼓動がミアルの頬に静かに響き、彼女は思わず唇を寄せた。
 ミアルがちらりと見上げると、ジュンと目が合った。ミアルが小さく笑い声を漏らすと、ジュンはわずかに口の端を上げた。

 ジュンはミアルを腕枕しながら、静かに言った。
「――いつから見ていた?
昼間の出征式で……」

「あなたが正門から出てきたときから。
でも、視界の端で見ていただけです。
だって視線を送ったら、一瞬であなたに仕留められてしまいますもの」

「お前が偵察兵だったら、死んでたな」
 ジュンは軽口を叩いた。

「ジュン様は、民衆の一人一人に、警戒の視線を投げていましたね」

「七夕の宴の刺客も捕まってないからな」

 その刺客がフェイリンだと、ミアルは知っている。もちろん、口には出さなかった。

「あなたの右手は、剣には触れず。
でも、“必要になれば一秒で抜ける”という気配だけが、背中に張りついていて……」

 ジュンは黙って聞いている。

「――あなたの周りだけが戦場でした。儀式ではなく」

 ミアルの言葉に、ジュンは目を伏せた。
「どいつもこいつも、ぬるいんだ」
 その声は、怒りというには静かすぎて、あざけりというには冷めていた。ジュンの目は、どこか遠くを見ているようだった。

 俺は、戦場にいたい――そんな言葉がジュンの横顔ににじみ出ているのを、ミアルは見逃さなかった。

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