小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第40話 屈辱の仕返し(3/5)




 その日の昼過ぎに、ロウ侍医はドン監察官の私邸へ往診に訪れた。――従者に扮したジュンを伴って。

 ドン監察官は、寝台に縛りつけられて、うわ言をつぶやいていた。

 その前で、祈祷師がまじないを唱えている。奇妙な香の匂いが、部屋中に充満していた。

 ロウ侍医が挨拶をした。
「ドン夫人、診察に参りました」
 ドン夫人は涙で腫れた目で「早く診てちょうだい!」と言い、祈祷師を下がらせた。

 ロウ侍医とジュンは、ドン監察官に近づいて挨拶をした。

 ジュンがドン監察官に殺気を飛ばしたとたん、うつろだったドン監察官は目を大きく見開いた。
「貴様……っ!!」

 ジュンの目が愉快に歪む。
「おい!こいつはラン・ジュンだ!
早く追い出せ!!
私に復讐しに来たんだ!!
殺される……!殺される……っっ!!」
 ドン監察官は、必死で叫んだ。だが、病気によるうわ言だと思われているので、誰も真に受けない。
 ドン夫人は幻覚に怯える夫に、涙を流した。

 ジュンは寝台の脇に腰を下ろし、慈愛に満ちた声で言った。
「――ドン監察官、落ち着いてください」
 ドン監察官の肩を軽く叩くその手は、まるで子をあやすかのように優しかった。

 だが、ジュンの心の中は――まったく逆だった。
(貴様は、俺を戦場から引きずり下ろした。
一太刀も交わさず、陰でこそこそと手を回したな。
俺を“危険人物”として糾弾したあのときの顔――忘れたことはないぞ。
今どちらが刀を握っているか……思い出させてやる)

 ジュンは、優しく残酷な笑みを浮かべた。
「私は……“何もしません”よ?」

 そのひとことで、ドン監察官の顔からすうっと血の気が引いていき、彼は目を見開いたまま気絶した。

「旦那様!?」

 叫ぶドン夫人を、ロウ侍医が制した。
「ご安心を、気絶されただけです。しばし別室でお休みください」

 ドン夫人は、ふらふらと部屋を出て行った。

 室内にはジュン、ロウ侍医、ドン監察官の3人だけになった。

 ジュンは息をついて、すぐ診察を始めた。脈を測り、舌を見、まぶたを開き、胸元に発疹がないかを調べた。
「十中八九、あの奇病ですね」

 ジュンの診断に、ロウ侍医はようやく安堵の表情を浮かべた。持参していた薬をドン家の使用人に渡し、煎じるよう頼んだ。

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