小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第41話 床の中の乾き(5/5)




 ある日の午後、ゼフォンは御花園《ぎょかえん》の小道を、チャオ内侍を伴って歩いていた。
 すると、宮女が菊の枝を抱えて小走りしてくるのがゼフォンの目に映った。

 宮女はゼフォンの姿を見たとたん、立ち止まって少しうつむいた。その肩が上下していた。

 ゼフォンは足を止め、何気なく「そんなに急いで、どこへ行くのだ?」と尋ねた。

 宮女の無邪気な顔が、菊の枝の後ろからパッとのぞいた瞬間、ゼフォンは息をのんだ。
「皇太后殿下のところでございます。やっと咲いたので、いち早くお見せしようと……」
 ゼフォンを見上げる宮女の瞳は、子犬のようにキラキラとしていた。

 そのきらめきに、ゼフォンは目を奪われていた。
(カナリアも、かつてはこのように笑っていた。何も持たず、ただ“予”を見ていた……)
 不意に、ゼフォンへ問いが湧いた。
(カナリアは予を、本当に愛しているのだろうか?)
 その仮定は、ゼフォンにとっては耐えがたい苦痛だった。
 ゼフォンは問いの答えから目をそらし、宮女の持つ光へすがった。

 シャオレイはミアルとともに、御花園を通りかかった。不意に、遠くから笑い声が聞こえる。
(ゼフォン――?)
 それは、シャオレイが久し振りに聞いた彼の明るい声だった。シャオレイは立ち止まり、樹木の影から声のほうをそっと覗いた。

 そこには、ひとりの宮女と並んで歩くゼフォンの姿があった。

「……!」
 シャオレイの心臓が跳ね、鼓動が嫌な音を立てる。

 宮女がはにかみながら、菊の花をゼフォンの鼻に近づけた。ゼフォンはやさしく笑って、宮女の肩を抱き、何かをささやいた。

 宮女の頬が紅く染まるのが、シャオレイにもはっきりと分かった。

 ゼフォンはずっと、宮女を愛おしそうに見つめていた。――それは、かつてシャオレイが得ていたものだった。

 よろめきそうになったシャオレイを、ミアルが支えた。

 シャオレイは、そのまま静かに御花園から立ち去った。揺吟宮《ようぎんきゅう》へ戻る道中、心の中で自分に言い聞かせる。
(陛下は気晴らしに宮女とお話しされているだけよ……それを私がたまたま見ただけ。
――そうでしょ?兄さん)

< 202 / 244 >

この作品をシェア

pagetop