小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第42話 夢の中のぬくもり(5/5)


 ゼフォンが口を開いた。
「そなたが駐屯地で治療をしていたとは、初耳だな。
――知らなかったのは予だけか?」

「私も存じ上げません!」
 ドン監察官が、かぶせるように答えた。

 ロウ侍医は答えに詰まっていたが、ゼフォンと目が合って絞り出すように言った。
「…私も」

 ジュンは想定通りと言わんばかりに、語り出した。
「戦に出ていたころ、軍医の数が不足していたのは日常でした。
特に辺境では、傷ではなく病で兵を失うことが多く……。
自らで救ったほうが合理的と考え、医術の基礎を学びました。
師を得られる環境ではなかったため、現地の薬草師や老兵の知識を集め、独力で学んだのです。
……その後、応急処置に用いる薬や毒の類にも、最低限は通じるようになりました」

 終始ドン監察官は、ジュンへ胡散臭そうな視線を飛ばしていた。

 ゼフォンは鋭く問うた。
「そなたの技能、宮中で活かせたのでは?」

 ジュンは深々と頭を下げた。
「陛下に事前の報告がなかったことは、まことに申し訳ございません。
この知識は、戦場においてしか必要とされない知識だと、判断しておりました。
……弁明にはなりません。お詫び申し上げます」

 ゼフォンはしばらく沈黙していた。
(皇后――毒婦の指示か?
いや、それにしてはずさんだな。
あの女は尻尾をつかませない。
ラン・ジュンの私怨と考えて、間違いないだろう)

 やがて、ゼフォンは低く告げた。
「そなたの判断が正しかったかどうかは、調べればいずれ分かる。
――ともかくロウ侍医、今回の件は良くやった」

 続いてゼフォンは、ロウ侍医を改めてねぎらい、チャオ内侍に命じた。
「……ラン衛帥の関与については、引き続き調査せよ。
ラン衛帥は、しばしの間自宅待機せよ」

 ゼフォンの一言で、ジュンの胸の内に怒りが湧いた。
(俺が功績を立てても、こいつらは俺を認めないのだ)

 ジュンは静かに退室し、廊下を歩いていた。すれ違った宦官に礼をされても、目を向けなかった。
 不意に、ジュンの頭へかつてミアルに言われた言葉が浮かぶ。

『陛下は、見る目がありませんわ。
ジュン様は無敗の英雄なのに、戦場から追い出すなんて……』

(そうだな……ミアル。こいつらの目は曇っている)

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