小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第43話 奈落への、秒読み(5/5)




 その日の夕方、ジュンが私邸へ帰ると、門前に禁軍の兵が増えていた。ひとりの兵がジュンに告げた。
「勅命《ちょくめい※》で、警備強化のために警備兵が追加されました。念のために、外出時には申告してくださいますよう……」 [※皇帝の命令]

 その言葉に、ジュンの眉間がイラ立ちに震えた。

 邸内に入ると、ジュンへ家令《かれい》が近づいてきた。
「”ご側室”方が、ご実家より呼び戻されたようで……。
申し訳ありません……お引き止めできませんでした」
「構わん。――おまえも逃げていいんだぞ?」
 ジュンの言葉に、家令は首を振った。

 ジュンは私室の椅子に腰を下ろして使用人を呼んだが、誰も来ない。代わりに、いつもは気配すら消している従者が、足音を響かせて慌てて現れた。
 その様子から、ジュンは使用人がごっそり減っていることを察した。従者を手で制して、酒蔵へと向かう。

 かつては、使用人たちが足音を響かせ、妾《めかけ》が笑いながら酒を注いだ。だが、今は物音ひとつない。

 ジュンは、酒蔵の中でしばらく無言で酒をあおっていた。だが、胸の奥のモヤモヤは、濃くなるばかりだった。
 やがて、大きく息をついて立ち上がり、酒蔵を出た。



 すでに、外は闇に包まれていた。

 ジュンが門前の兵に外出を告げると、兵はうやうやしく頭を下げた。
「外出でございますか。かしこまりました、お気をつけて――」

 ジュンは馬車に乗り込んだ。その中にはすでに、ジュンの身代わりをする男が座っている。
 ジュンは身代わりへ「馬車を走らせて、適当な所で戻れ」と、命じた。

 馬車が走り出してしばらくすると、ジュンの予想通りに、兵が尾行してきた。
(やっぱりな……)
 角を曲がるとすぐ、ジュンは馬車から飛び降り、夜の街にまぎれて去った。

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