小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第44話 やさぐれた交わり(2/6)


 そこにいたのは、ミアルだった。

「……神出鬼没だな、お前」
 やさぐれた顔で、ジュンは吐き捨てた。

 ミアルは言葉を失っていた。
(これが、ジュン様……?)

 いつもきっちりと結っているジュンの髷《まげ》はほどけ、髪は乱れている。
 ジュンは、酒瓶から酒を口へ流し込んでいた。飲み干すと、大きく息をつき、次の酒瓶へと手を伸ばす。――まるで自分を呪っているようだった。
 そこには、狂犬と呼ばれた男の気配はなかった。ただ、哀れな男の横顔だけが、ろうそくのあかりの中にあった。


 笑いながら毒を吐き、相手をねじ伏せる、誰よりも強い男。――それがラン・ジュンだと、ミアルは理解していた。そんな彼を、自分だけが手のひらで転がせると自負していた。

 だが――目の前にいるのは、苦痛を酒でごまかすただの男だった。

 ミアルの鼓動が嫌な音を立てている。
(無敗の英雄が濡れ衣を着せられたくらいで、こんなに傷つくなんておかしいわ。
あなたは、怒りを闘志に変えて、受けた屈辱を倍にするはずでしょう?
どうしてこんな……凡庸な男みたいに振る舞うのよ……。
それとも私……何か間違えた?
いえ……この方はいずれ陛下に仇《あだ》なす者。
やらなければ、陛下が――)

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