小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第44話 やさぐれた交わり(3/6)


 ジュンはミアルの視線に気づき、酒瓶を卓に叩きつけるように置いた。その音に、ミアルが小さく跳ねる。
 「……面白いか?俺の物語は」と、ジュンは尋ねた。

 ミアルは、何も言わなかった。

 それからジュンはゆっくりと立ち上がり、ミアルの顔をのぞき込んだ。
「面白かったろう……?」
 ジュンの声はささやくようでいて、強烈だった。並の女なら、震えあがるほどの圧があった。

 だが、ミアルは微動だにせず、ジュンの眼光を正面から受け止めていた。
 怖いのではない。観察者として割り切っていたはずのミアル自身が、ジュンという人間の痛みに初めてふれて、混乱していた。
(なんて答えたらいいの……)

 やがて、ミアルはゆっくりと首を振った。
「……いえ」

 ジュンはふっと唇をゆがめたが、その目に笑みはなかった。
「面白いぞ、俺は。
やることすべてが裏目に出たんだからな!」
 ジュンは、体を反らせて両腕を広げた。
「これは、天の采配だ!
皇帝を殺して、玉座を奪えという!」
 自棄《やけ》になって言い放つジュンの姿は、舞台役者のようだった。だが、ミアルには彼の“逃避”だと気づいていた。

 やがて、ジュンの声が静かに落ちた。
「そうだ……あんなまどろっこしいことはしないで、さっさと暗殺してしまえばよかったんだ……。
そしたら、俺を皆が認める」
 その一言は、どこにも向けられていなかった。

 ミアルはただ、立ち尽くしていた。

 ジュンはわずかに期待していた。いつものように、ミアルが軽口で返してくれることを。

 だが、ミアルから返ってきたのは沈黙だった。

 ジュンは急に白けて、「帰れ」と言い放った。踵《きびす》を返し、寝台に向かう。

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