小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第45話 もつれる情緒(2/5)


 不意に扉がきしむ音がして、ジュンが部屋へ入ってきた。その手には、たらいと手巾がある。

 ミアルは「ジュン様――!」と驚き、反射的に布団を引き寄せて体を隠した。それから、伏せた目がちに挨拶をした。
「……おはようございます」

 ジュンはミアルをちらりと見ただけで、たらいの湯で手巾をしぼる。そして、ミアルの布団をはぎ取り、無言のまま彼女の体を拭き始めた。

「あの――」

 戸惑うミアルをよそに、ジュンは淡々と手を動かしながら「なぜ俺がここにいると分かった?」と言った。

 その問いにミアルは拍子抜けしつつ、答える。
「……まず、華宵宮《かしょうきゅう》や私邸にはおられないと推測しました。
そして、この前ここへ向かわれたときに、ジュン様は従者と特に言葉を交わされておりませんでした。
つまりここが――」

「俺の行きつけだと分かったんだろう?」

「はい。一部屋ずつ戸を叩いて確認しました。
……そのたびに怒られましたけど」

「他人の閨事《ねやごと》の邪魔をするからだ」

 鼻で笑うジュンに、ミアルは安堵した。
(いつものジュン様だわ……。
私を抱いて気が晴れたのかしら?)
 ミアルは自分でも短絡的な考えだと思ったが、そう納得することにした。
(――では、陛下を暗殺するというのは、酒の勢い?)

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