小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第45話 もつれる情緒(3/5)


 やがて、ミアルの脚へと伸びたジュンの手が、ぴたりと止まった。

 “そこ”は、赤く腫れていた。

 ジュンは眉をひそめ、何も言わずに自分の衣《ころも》を探った。
 懐から取り出したのは、小さな筒――彼が常備する傷薬だった。蓋を開け、指先に少し取り、慎重に患部へ塗りこむ。
 ミアルの肩がぴくりと跳ねるが、ジュンは無言で、ただ薬を塗り続けていた。

 ミアルの胸がちくりと痛んだ。
(これは、彼なりの贖罪《しょくざい》なんだわ……。ただの狂犬だったら、こんなことしない――)
 ミアルは、彼の手を止めた。

「?」
 ジュンが顔を上げた瞬間、ミアルの目からぽろりと涙がこぼれた。

「そんなに優しくしないで……」
 ジュンの姿は、ミアルの罪悪感を刺激していた。
(私はジュン様を罠にはめようとしている女なのに、こんなことされる資格は無いわ)

 だが、ミアルの真意に気づくことなく、ジュンは口の端を上げた。
(昨夜の出過ぎた真似を悔いているのか……ようやくわきまえたな)

 ジュンはミアルの頬を撫で、慰めるように口づけをしてやった。
 それから、ミアルをそっと寝台に倒した。彼女を抱きかかえてごろりと転がり、ジュンが下になる。
 ジュンはミアルを撫でさすっていた。

「ジュン様お願い……。優しくされると……つらくなるんです……」

 ミアルの懇願は、ジュンの愉悦に変わった。
(ミアルは俺のやり方を受け入れ、悦んでいる……)

 ミアルはいたたまれなかった。
(私ったら、罪悪感を抱いておいて、彼に悦びを与えられるままなんて……)
 だが次の瞬間、ジュンの愉快そうなほほ笑みで、ミアルの心が弾けた。
(ああ……!そんな顔されたら……私もう、もう――)
 いつのまにか、ミアルはジュンの顔を撫でまわしながら、口づけを落としていた。
(私、ジュン様が喜んでるときの顔が好き……。意地悪そうに、ゆがんでるの……とっても美しいわ)

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