小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第46話 今さらの急浮上(4/6)



 正殿の玉座に、ゼフォンはいた。

 やや緊張した面持ちの元副官が、その前にひざまずいている。彼は白髪《しらが》交じりではあるが、長年の軍務を勤めてきただけあって、たくましい体つきだ。

 ゼフォンは鋭い瞳で、元副官に問うた。
「奇病が、東北第8駐屯地付近で流行っていた……」

「はい。当時のラン殿の部隊でございます」

「なぜそのときに報告しなかった?」

「申し訳ありません、陛下。
地方の小部隊の戦況以外の報告など、煩わせるだけかと考えておりました」

「ラン・ジュンは、なぜ口止めをした?」

「奇病が発生したのは、私の部隊のみでございます。
”無用な恐怖を与えれば士気に影響する”と、ラン殿は言われたのです。
――私も、賛同した次第でございます」

「口止めにもかかわらず、予の知らぬところで漏れ出ていた。
なぜだ?」

「私は……ラン殿に救われた者が、口を滑らしたのだと考えております。
――嬉しさのあまりに。
あのときはろくな医療も受けられず、皆、死を待つばかりでございましたから。
……私もそのような状況にございました」
 元副官の声には重みがあった。彼の心には、ジュンに命を救われた恩が今も刻まれていた。

 ゼフォンは、渋い顔でうなずいた。

 そばにいたドン監察官もまた、複雑な表情で元副官を見ている。

 元副官はジュンよりも年長で、20年近く軍務に尽力してきた古株だ。その発言の信憑性は高かった。

 続いて、ドン夫人とドン家の使用人たちが呼ばれた。彼らはそれぞれ、当日ロウ侍医が連れていた従者の顔を確認した。
 もちろん、この従者はジュンではない。ロウ侍医はジュンと背格好が似ている従者へ、口裏を合わせるように頼んでいたのだ。

 当時、ドン監察官の私邸には、彼を治すために様々な者が出入りしていた。だから、従者を正確に覚えている使用人はいなかった。
「背格好は似ておりますが――」と、誰もが似たような返事をした。
 ドン夫人も混乱していたため、同じだった。

 そして、ドン監察官の私邸にジュンが潜入したという話は、監察官の幻覚だという結論に落ち着いた。

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