小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第54話 冷ややかな理性(4/5)




 翌朝、幕舎の中では毛皮つきの外套を羽織ったミアルが、手炉《しゅろ※》を持ってジュンの帰りを待っていた。 [※手を温めるための小型の火鉢]

 すると、外から馬のひづめの音が近づいてきた。

 ミアルがすぐに出入り口の隙間から外を覗くと、そこにはジュンの姿があった。ミアルの心に、安堵と高鳴りが広がった。

 ジュンは、配下たちと話し合いをしていた。禁軍統領の私邸で捕まった、ジュンの配下たちについてだった。

「向こうも失敗したか。――父上が裏切るとはな……」

「全員自害したのを、この目で見届けました」

「ご苦労」
 ジュンは淡々とした声で、失敗を受け入れていた。



 しばらくして、ジュンが幕舎に入ってきた。

 ミアルは「ジュン様……!」と叫んで彼へ駆け寄った。

 ジュンも笑みを浮かべて「ミアル!」と叫ぶ。

 そして、ミアルは目に涙をにじませながら、ジュンの胸に飛び込んだ。ジュンの体からは血と土埃の臭いがして、激しい戦いを物語っていた。
「本当にご無事で……!
夢じゃないのね……?」
 ミアルは、ジュンを両手で触れた。肩、腕、胸――ジュンの体に怪我がないかを、確かめながら撫でていく。

「お前は、俺を誰だと思っている」
 ジュンはそう言ってから、腕の中のミアルを少し引き離すと、その姿をじっくりと眺めた。

 華やかに結い上げた髪、繊細な刺繍が施された深緑色の衣――それから帯にかけられた佩玉。ジュンはそれに目を留めたまま、口の端を上げて言った。
「やはりお前には、派手な格好が似合う」

 ミアルははにかんだが、すぐに不安の色をにじませた。
「謀反はどうなったの……?」

「また機会はある。やり直しだ」
 ジュンは苦笑を浮かべながらも、全く落ち込んでいる様子はない。

「でも……ジュン様が無事でよかった」
 正直な気持ちを口にしたミアルを、ジュンは冷めた目でチラリと見た。

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