小鳥の爪―寵姫は2番目の恋に落ちる―
第5話 仇討ちの理由(4/5)
◆
瑶吟堂の琴房のシャオレイの元へ、シャン・ミアルが来た。
ミアルはシャオレイよりも5つ年上で、聡明な顔立ちをしていた。
茶色を帯びた黒髪は両輪に結い上げられ、質素な花飾りがそっと留められていた。
伽羅色《きゃらいろ※》の瞳は、やわらかな雰囲気を作っていた。 [※やわらかい黄赤色]
光沢を抑えた絹の藍色の半袖の上衣《じょうい》が、ミアルの襟元をすっぽりと覆っている。周囲の侍女たちが華やかに胸元をあらわにするなか、彼女だけが首元まで衣を閉じていた。
刺繍の施された朱の裙《くん》は、歩くたびに花びらのように揺れる。
その姿は、艶やかさよりも、静けさをまとうものだった。
「カナリア姫様に、お目にかかれて光栄です」
ミアルがあいさつをした瞬間、シャオレイの額の小鳥がふわりと光った。
シャオレイは動揺しつつも、期待が芽生えた。
(この人が私の味方なのね……?)
ミアルは目を見開いてそれを見つめていたが、やがて光が消えると、何事もなかったかのようにほほ笑んだ。
シャオレイにねだられて、ミアルが昔話をした。
「あれは陛下が7歳、私が4歳の頃でした。
私が庭で転んで、泥だらけになったんです。
泣いていたら、陛下が来て手を差し伸べてくださいました。
でも私を立たせた拍子に、今度は陛下が足を滑らせて転んで……」
シャオレイが口元を押さえて笑い、ミアルが続けた。
「侍従が慌てて駆け寄る中、私が手を差し伸べたら、陛下は顔を真っ赤にしてこうおっしゃったんです。
『女に頼る男がどこにいる!』って。
でも、最後に私の涙を手巾で拭いてくださいましたわ」
「ふふ……陛下ったら、7歳でもうそんなだったのね」
シャオレイがふと思い出して言った。
「そういえば、陛下の腕にうっすらと刀傷があるけど……」
ミアルが声をひそめた。
「……内緒ですよ?陛下が12歳のころ、剣の稽古で袖を裂かれたことがありました。
稽古相手の老将軍が真っ青になって、地面に額をつけて謝って……。
陛下は、“衣が斬れただけだ”と立ち去ったんですが、実は傷を負っていて。
あの方は、将軍を守るために黙っていたんです」
「まあ……」
「あとで私がこっそりお部屋を訪ねて、手当てをしました。
陛下は平気そうな顔をされていましたが、肩が震えていたのをよく覚えております」
「陛下はいつも、誰かを守る側でいようとされるのよね……。
それが、たとえ痛みに耐えることになっても」
シャオレイはそう言って、お茶を飲んだ。
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瑶吟堂の琴房のシャオレイの元へ、シャン・ミアルが来た。
ミアルはシャオレイよりも5つ年上で、聡明な顔立ちをしていた。
茶色を帯びた黒髪は両輪に結い上げられ、質素な花飾りがそっと留められていた。
伽羅色《きゃらいろ※》の瞳は、やわらかな雰囲気を作っていた。 [※やわらかい黄赤色]
光沢を抑えた絹の藍色の半袖の上衣《じょうい》が、ミアルの襟元をすっぽりと覆っている。周囲の侍女たちが華やかに胸元をあらわにするなか、彼女だけが首元まで衣を閉じていた。
刺繍の施された朱の裙《くん》は、歩くたびに花びらのように揺れる。
その姿は、艶やかさよりも、静けさをまとうものだった。
「カナリア姫様に、お目にかかれて光栄です」
ミアルがあいさつをした瞬間、シャオレイの額の小鳥がふわりと光った。
シャオレイは動揺しつつも、期待が芽生えた。
(この人が私の味方なのね……?)
ミアルは目を見開いてそれを見つめていたが、やがて光が消えると、何事もなかったかのようにほほ笑んだ。
シャオレイにねだられて、ミアルが昔話をした。
「あれは陛下が7歳、私が4歳の頃でした。
私が庭で転んで、泥だらけになったんです。
泣いていたら、陛下が来て手を差し伸べてくださいました。
でも私を立たせた拍子に、今度は陛下が足を滑らせて転んで……」
シャオレイが口元を押さえて笑い、ミアルが続けた。
「侍従が慌てて駆け寄る中、私が手を差し伸べたら、陛下は顔を真っ赤にしてこうおっしゃったんです。
『女に頼る男がどこにいる!』って。
でも、最後に私の涙を手巾で拭いてくださいましたわ」
「ふふ……陛下ったら、7歳でもうそんなだったのね」
シャオレイがふと思い出して言った。
「そういえば、陛下の腕にうっすらと刀傷があるけど……」
ミアルが声をひそめた。
「……内緒ですよ?陛下が12歳のころ、剣の稽古で袖を裂かれたことがありました。
稽古相手の老将軍が真っ青になって、地面に額をつけて謝って……。
陛下は、“衣が斬れただけだ”と立ち去ったんですが、実は傷を負っていて。
あの方は、将軍を守るために黙っていたんです」
「まあ……」
「あとで私がこっそりお部屋を訪ねて、手当てをしました。
陛下は平気そうな顔をされていましたが、肩が震えていたのをよく覚えております」
「陛下はいつも、誰かを守る側でいようとされるのよね……。
それが、たとえ痛みに耐えることになっても」
シャオレイはそう言って、お茶を飲んだ。