小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第57話 むなしき流れ(6/6)


 ミアルの喉から、乾いた息が漏れた。
(助けなきゃ……ジュン様を……)
 ミアルがここへ来たのは、ジュンを殺すためでも、裁くためでも、見捨てるためでもない。
 ただ、ジュンを生かすために救い出すと、命を賭けて誓ったからだ。
 だが――ミアルの体の芯から震えが湧き、一歩踏み出そうとしても、足がすくんで動かなかった。声を出したくても、喉が焼けついて何も言えない。

 ジュンとフェイリンの刀が交わるたびに響く、殺気混じりの金属音。それが、ミアルの恐怖を呼び覚ましていた。

 ミアルは初めて見る本物の殺し合いを前に、ただ立ち尽くすしかなかった。

 ジュンの額には、玉のような汗がにじんでいた。
 フェイリンの切っ先が、ジュンの体をかすめ始めた。

 ジュンが刀を両手で構え直した理由が、ミアルにもはっきり分かっていた。――ジュンはもう、刀を片手で振れない。ジュンの右腕の傷から、手まで血がしたたり落ちていた。

 ジュンの、死への秒読みが始まっていた。

 ミアルの目から涙があふれた瞬間、ある感情が湧いた。――それはたまらなく身勝手で、幼稚なもの。
(みんな、どうして……どうして寄ってたかってジュン様を殺そうとするの……?
ひどいじゃない……)
 悲しみが身体の奥から突き上げ、ミアルは崩れ落ちた。

 その姿に、ミアルのそばで戦いを見守っていたシャオレイは衝撃を受けた。

 シャオレイの知っているミアルは、いつも冷静で、度胸があり、一時の情に流されない侍女だったからだ。
 そんなミアルが、泣き崩れていた。――男を愛する、ただの女のように。

(そこまで……ラン・ジュンのことを――!?)
 シャオレイはそっと屈み、ミアルの震える背中をさすった。そうすることしか、できなかった。

< 285 / 305 >

この作品をシェア

pagetop