小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第58話 同調するためらい(3/6)


 ミアルは涙を流したまま、急いで自分の上衣を脱ぎ、ジュンの上半身に強く押し当てた。止血をするミアルの手が、小刻みに震えていた。

 ジュンには、ミアルが理解できなかった。
(なんなんだ……なんなんだこの女は……!)
 ジュンは耐えきれなくなり、感情を爆発させた。
「俺を殺そうとしたくせに、なぜ今さら助ける!!
――お前は一体何がしたいんだ!?」

 だが、ミアルは――
「薬は、無いの……?」
 それだけが、今の彼女に絞り出せる言葉だった。
 ミアルはゆるされたいのでもなく、愛がほしいのでもなく、ただ――ジュンを生かしたかった。

 予想外のミアルの言葉に、ジュンは押し黙った。しばらく荒い息をしていた。
「俺を……もてあそぶ気か?」

 ジュンの言葉に、ミアルは彼を見つめたまま強く首を振った。
 ミアルの涙がジュンの頬を優しく撫でて、落ちていった。それは、温かく重かった。

 ミアルの真意は分からないままだったが、ジュンの胸の奥はざわついていた。
 やがて、ジュンは力なく言った。
「切り傷用の薬がある……。
さっき、あの女があさった物の中に――」
 ミアルは足をもつれさせながら、幕舎へと駆けていった。

 ジュンとふたりきりになったシャオレイは、構えていた仕込みかんざしを髪へ戻した。それから、ジュンを目で捉えたまま、短刀を逆手に握りしめて近づく。
 血を流し続ける彼を、シャオレイは見下ろした。
(今ならとどめを刺せる……)

 ジュンは荒い息をして、虚ろな目をしている。その姿は、かつて彼に命を奪われた自身の姿を連想させた。

(前世では、ジュンにためらいなく殺されたわ。
私も陛下も。
助けてやる義理なんかない――)

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