小鳥の爪―寵姫は2番目の恋に落ちる―

第6話 偽りの死

第6話 偽りの死(1/3)




 その夜、瑶吟堂《ようぎんどう》の寝所《しんじょ》に、シャオレイはいた。
 ミアルを下がらせ、ひとり舞っていた。
(フェイリンに頼ってるだけじゃだめね……自分で皇后を廃后に追い込む手も考えなきゃ。
そのためには後宮での地位も上げないと。
……でも私は、最下位の姫。
身分の低い私に臣下が反対しているから、陛下の寵愛だけでは昇格できない。
子を授かれば昇格できるけど、それは無理ね)

 シャオレイは青楼にいた頃に流産した影響で、子を授かりにくくなったのだ。
(前世では結局授かれなかったから、今世も期待できないわ)

 シャオレイの唇から旋律がこぼれる。
「……ついばむ小鳥は答えを知らぬ……花びらの帰りゆく先を……」
「……さえずる小鳥は答えを知らぬ……木の葉の流れゆく先を……」
「……はばたく小鳥は答えを知らぬ……そよ風の消えゆく先を……」

 シャオレイはふっとひらめいた。
(そういえば――この歌を教えてくれた青楼の姐さんが身請けされるときに、一旦名家の養女になっていたわ。
姐さんが貴い身分になったから、身請け先の義両親も反対しなくなった)

 シャオレイは舞いながら、考えをめぐらせていた。
(そうよ……私も同じことをしたらいいんだわ。
それなら、名家と繋がりを持つにはどうしたらいい……?)

 シャオレイの袖がゆらめく。
(名家たちが宮廷に集まるときを狙えばいい……)

 そのとき、シャオレイはひらめいた。
(――七夕の宴!
普段の宴とは違って、大勢の文化人が来るわ。
そこで名家と繋がりが持てれば……!)
 シャオレイはほほ笑みを浮かべながら、力強く舞っていた。



 翌朝からシャオレイは、一日中瑶吟堂の琴房にこもっていた。油灯のあかりの中、机の上に積まれた、古い詩や文献を書き留めている。
 七夕の宴では、詩作・書道・刺繍の腕比べが行なわれる。
 シャオレイはそこで、自作の歌舞を披露するつもりだ。

 ミアルが足早にお茶を持ってやってきた。
「姫様、華宵宮を襲った刺客の遺体が発見されたそうです」

「えっ……!?」
 シャオレイはすぐに、琴房を飛び出した。
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