小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第58話 同調するためらい(6/6)


 不意に、遠くから馬のいななきが聞こえてきた。

 ミアルとシャオレイが驚いて振り向くと、馬車が現れた。

 中から、見知らぬ男が息を切らせて飛び出した。庶民の身なりをした50代くらいの細身の男で、白髪《しらが》混じりの黒い髭をたくわえていた。
 その男は、警戒するシャオレイに近付きながら「私はロウ殿の知り合いだ!あんたがカナリア妃か!?」と言った。

 シャオレイは思わずうなずいて、言った。
「あなたは……?」

「ただの町医者だ……それでいいだろう?
ここに来るだけでも、危ない橋を渡ってるんだ」

 実は、シャオレイは宮廷を出発する前に、ロウ侍医にここへ来るように頼んでいたのだ。謀反が起きたばかりで、無理な相談だとは分かっていたが、ロウ侍医は違う形で約束を守ってくれた。

 だが――こんな場面で約束が役に立つとは、シャオレイは予想していなかった。
 シャオレイに、複雑な気持ちが湧いた。
(小鳥が導いたのは……このためだったの――?)

 町医者は倒れているジュンへ近寄り「こいつか?」と言い、返事を待たずにてきぱきと治療を始めた。その動きには迷いがなかった。

「助かりますか……?」

 不安げに尋ねるミアルに、町医者は静かに答えた。
「こいつの気力次第だ。――もしやお前がラン殿か?」

 ジュンは警戒の色をにじませつつも、小さくうなずいた。

「ラン殿のことは、ロウ殿から伝え聞いていた。
ドン監察官の件で、恩を受けたと言ってた。
――首がつながったのは、ラン殿のおかげだと」
 続けて町医者は「あわや首が離れそうになったのも、ラン殿のせいだった……ともボヤいてたが」と、ガハハと笑った。

 ジュンはグッタリとしながらも、口の端を上げた。

 町医者の言葉に、シャオレイは暗い気持ちになった。
(”ラン殿のおかげ”――副指揮官も似たようなこと言ってたわ。
こんな男でも、感謝されてる。
陛下と私を殺した、こんな男でも……)

 シャオレイは息をついて、その場をミアルと町医者に任せることにした。ミアルがシャオレイに何かを言いたげだったが、面倒になって気づかないふりをした。
 フェイリンの刀を地面から抜いて持ち、消えた彼を探しに行く。
(あんな男を助けることに、何の意味があるのよ……。
小鳥の気まぐれにも、ほどがあるわ……)

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