小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第59話 自分への罰(2/5)




 夕陽に照らされて、川は真っ赤に染まっていたが、水はひんやりとしていた。
 その中で、フェイリンは血と死の匂いが染みついた体を洗っていた。フェイリンの髪から染料が落ち、隠されていた白髪《はくはつ》があらわになっていく。
 フェイリンには、むなしさだけが広がっていた。

 12年間、フェイリンは仇討ちだけを支えに生きてきた。
 2度のメイレン暗殺失敗の末に、ようやくラン家の一員――ジュンを追い詰めた。

 だが、ジュンはユン家を皆殺しにした張本人ではない。
 その上、戦いの最中にジュンがミアルへ気をとられていた。フェイリンの仇討ちなど、ジュンにとっては取るに足らないことなのだ。

 そのことも、フェイリンのむなしさに拍車をかけた。
 結局、フェイリンはジュンにとどめを刺せなかった。その事実が、フェイリンへ重くのしかかる。
 フェイリンは大きく息をつき、川に仰向けに横たわった。そして、顔を覆ったままゆっくりと水底に沈んでいった。



 あたりは、夕闇に包まれ始めていた。
 シャオレイは、幕舎の近くに座り込んでいた。山の冷たい空気が、シャオレイの肌にまとわりつく。
 ぼんやりと視線は遠く、何を見ているのかシャオレイ自身にも分からなかった。
 不意に、草を踏む音がシャオレイに近づいてきた。

 町医者とその従者が、木の枝を組んだ即席の担架を運んできたのだ。

 そこに横たわっていたのは、包帯を巻いている血まみれのジュンだった。そばにはミアルが付き添っている。

 シャオレイは眉を寄せた。シャオレイの胸に湧き上がるのは、不快とも言い切れない、複雑な思いだった。

 ミアルがシャオレイに気づき、ひざまずいた。ミアルは、地に額をこすりつけながら頭を下げる。
「申し訳ありません、カナリア妃様――」

 だが、シャオレイは短く息をつき、ミアルの手を取って立ち上がらせた。
「もういいのよ……ほら、ついててあげて」

 担架はそのまま、幕舎の中へ運ばれていった。ミアルはシャオレイに小さく頭を下げると、後を追っていった。

 ジュンとミアルの姿が視界から消えると同時に、シャオレイに疲れがどっと押し寄せた。
 シャオレイは、静かにその場を離れた。

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