小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第59話 自分への罰(5/5)
◆
幕舎から少し離れた洞窟に、シャオレイとフェイリンはいた。
入り口近くに設置した焚き火が、やわらかな光とほのかな暖かさを、ふたりにもたらしていた。
洗った中衣を火のそばに干して、衣《ころも》を着たシャオレイが膝を抱えた。
フェイリンは隣に座り、外套をシャオレイにもかけてやる。
「少し寒いが、我慢しろ」
「いいの……幕舎には居たくないから」
そこにはジュンがいるからだ。
ふたりは無言で、焚き火を見つめていた。
ふと、フェイリンがシャオレイに視線を向けた。
普段はよく喋るシャオレイが、ずっと黙っている。シャオレイの伏せられたまつ毛が、目元に影を落としていた。
それだけで、フェイリンには分かった。――シャオレイが深く傷ついていることが。
その傷にフェイリンは共鳴して、彼の中で押し込めていた言葉が、思わず口を突いて出た。
「――俺は殺人狂じゃない」
シャオレイがわずかに眉を上げて、フェイリンを見た。
焚き火がはぜる。
洞窟の外では、風のうなり声と木の葉がざわめきがしていた。
フェイリンは、前を向いたまま話し続けた。
「泣きながら命乞いする女を、斬ったりしない……」
そう吐き出すと、フェイリンは膝を抱えたまま顔を伏せた。
フェイリンに、12年前のあの夜の記憶がよみがえってきた。
物置に隠れていたフェイリンへ届いたのは――瀕死のフェイリンの兄たちを庇い、ラン家に雇われた下手人たちへ命乞いするフェイリンの母の声だった。
フェイリンはそのとき初めて、彼の母の泣き叫ぶ声を聞いた。だが、それはやがて小さな悲鳴とともに、夜の闇に消えた。
フェイリンには、ジュンをかばうミアルの泣き顔が、亡き母の姿に重なった。だから、どうしてもジュンを殺せなかったのだ。
シャオレイは、そっとフェイリンの背を抱きしめた。それから、彼の肩へ頬を寄せた。
シャオレイもまた、フェイリンの傷に共鳴していた。
フェイリンの背中にまわされたシャオレイの腕は、あまりにも細く、軽く――あまりにも温かかった。
長い間、誰にも触れさせずにいたフェイリンの心の奥が、シャオレイの手で静かにほどけていく。
フェイリンの愛する女が、彼の悲しみをそのまま抱きしめてくれた。
それだけで、フェイリンの胸が締めつけられた。
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幕舎から少し離れた洞窟に、シャオレイとフェイリンはいた。
入り口近くに設置した焚き火が、やわらかな光とほのかな暖かさを、ふたりにもたらしていた。
洗った中衣を火のそばに干して、衣《ころも》を着たシャオレイが膝を抱えた。
フェイリンは隣に座り、外套をシャオレイにもかけてやる。
「少し寒いが、我慢しろ」
「いいの……幕舎には居たくないから」
そこにはジュンがいるからだ。
ふたりは無言で、焚き火を見つめていた。
ふと、フェイリンがシャオレイに視線を向けた。
普段はよく喋るシャオレイが、ずっと黙っている。シャオレイの伏せられたまつ毛が、目元に影を落としていた。
それだけで、フェイリンには分かった。――シャオレイが深く傷ついていることが。
その傷にフェイリンは共鳴して、彼の中で押し込めていた言葉が、思わず口を突いて出た。
「――俺は殺人狂じゃない」
シャオレイがわずかに眉を上げて、フェイリンを見た。
焚き火がはぜる。
洞窟の外では、風のうなり声と木の葉がざわめきがしていた。
フェイリンは、前を向いたまま話し続けた。
「泣きながら命乞いする女を、斬ったりしない……」
そう吐き出すと、フェイリンは膝を抱えたまま顔を伏せた。
フェイリンに、12年前のあの夜の記憶がよみがえってきた。
物置に隠れていたフェイリンへ届いたのは――瀕死のフェイリンの兄たちを庇い、ラン家に雇われた下手人たちへ命乞いするフェイリンの母の声だった。
フェイリンはそのとき初めて、彼の母の泣き叫ぶ声を聞いた。だが、それはやがて小さな悲鳴とともに、夜の闇に消えた。
フェイリンには、ジュンをかばうミアルの泣き顔が、亡き母の姿に重なった。だから、どうしてもジュンを殺せなかったのだ。
シャオレイは、そっとフェイリンの背を抱きしめた。それから、彼の肩へ頬を寄せた。
シャオレイもまた、フェイリンの傷に共鳴していた。
フェイリンの背中にまわされたシャオレイの腕は、あまりにも細く、軽く――あまりにも温かかった。
長い間、誰にも触れさせずにいたフェイリンの心の奥が、シャオレイの手で静かにほどけていく。
フェイリンの愛する女が、彼の悲しみをそのまま抱きしめてくれた。
それだけで、フェイリンの胸が締めつけられた。