小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―

第60話 逃げられないほどの、まっすぐな愛

第60話 逃げられないほどの、まっすぐな愛(1/4)


 チンリン山に、静かな朝が訪れた。

 幕舎に、柔らかな日差しが満ちている。その中の寝台で、ジュンはまだ眠っていた。

 かたわらには、ミアルの姿があった。毛織物の外套を着て、頬杖をつき、ジュンを見つめている。

 ジュンは布団にくるまれ、首から上だけがのぞいていた。
 呼吸にあわせて、胸が静かに上下する。顔には少し汗が浮かび、長いまつげが落とす影がに揺れている。口元はかすかに開いており、寝息が小さく聞こえた。

 その音に、ミアルの胸がじんと熱くなった。
 ――何度も、ジュンの死を意識した。だが今、ジュンは生きている。
 それだけでミアルはよかった。

 ミアルがじっと見つめるうちに、ジュンの眉がわずかに動いた。次の瞬間、まぶたがゆっくりと開いた。
 ジュンは、しばらくぼんやりとしていた。

「ジュン……」

 ミアルの柔らかい声が、ジュンの耳に届いた。ジュンの瞳が、ミアルをとらえる。

 ミアルは、いつもの冷静さを取り戻していた。昨日取り乱したことなど、なかったかのように。

 ジュンはかすれた声で「ずっと見ていたのか……?」と言った。

「――ええ」

 ジュンのまなざしには、警戒の色が残っていた。だが、ミアルは目を逸らさない。

「――なぜ、カナリア妃たちはここが分かった?」

「妃様には、不思議な力があるのよ。
なんでもお見通しなの」

 ジュンは鼻で笑った。だが、それ以外に説明がつかないとも思った。
「あの医者は……?」

「お戻りになったわ。
お薬と水と食糧を置いていってくださったから、私が看護する」

「……明日になったら、別拠点にいる俺の配下が来るはずだ。
奴らに任せる」

「分かったわ」

 ジュンは息をつき、目を背けた。
「お前も帰れ……」

「いいえ」

 ジュンは怪訝そうに、ミアルを見た。

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