小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第60話 逃げられないほどの、まっすぐな愛(4/4)


 そのミアルの笑顔が、ジュンには“愛されてるかもしれない”という、確信に近い気配として刺さった。錯覚じゃないことを確かめたくて、ジュンは言った。
「本当に……一生ついてくるのか?」

「そうよ」

「俺に、生きていてほしいのか?」

「そうよ」

「だが俺を殺す気なんだろう?」

 ミアルへ唐突に突きつけられた、ジュンの言葉の刃。ミアルは顔を一瞬で悲しみに染めた。
 だが次の瞬間――ミアルは、ジュンの頭をそっと抱きしめた。

 ジュンの鼻先を、ふわりと甘い香りがかすめる。それは、ミアルの胸元から立ちのぼる、温かく柔らかな匂いだった。

「そうなったら……後を追う……」
 ミアルは震える声でそう言って、しばらくすすり泣きをしていた。

 そのとき初めて、ジュンはミアルから本気で愛されていると分かった。

 やがてミアルは大きく息をついてから、慈しむようにジュンの髪を撫で始めた。

 その動きに、ジュンは反射的に身をこわばらせた。不意に、額へ柔らかな感触が触れる。
 ミアルが口づけを落としたのだと気づいたとき、ジュンの呼吸が一瞬、止まった。
 ジュンにとっては、なすすべなくミアルの愛に沈められていくようだった。それが、腹立たしかった。

 ジュンが牙を向けても、ミアルは決して去らない。だが、ジュンを愛しながらも屈服はしない。

 その一途さが、どうしようもなくジュンを追い詰める。
(俺は……この女から逃げられないのだ)
 言葉にできない気持ちが、じわじわとジュンの心を侵していく。
 それがイラ立ちなのか、それとも別の感情なのか――ジュン自身にも分からなかった。
(……くそ)
 やがてジュンは、諦めたようにミアルの胸にうずもれた。

 ジュンは、自分がミアルへどれだけ酷いことをしたか、本当は分かっていた。
 だがそれを口に出すのは、今もできない。
 ミアルにゆるされたいとは思っていない。ただ、ミアルの隣にいられる男になりたい。
 ミアルの前で牙をむかず、彼女の手を二度と汚させず、彼女が安心して眠れる場所を守る。
 それが、唯一自分にできる“償い”──ジュンはそう思った。

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