小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―

第8話 攻防戦の始まり

第8話 攻防戦の始まり(1/5)


 昼下がりの、瑶吟堂《ようぎんどう》にある琴房。

 今日もシャオレイは、そこへこもっていた。
 七夕の宴で披露する歌を作るためだが、上の空だった。久し振りの甘い夜――昨夜のゼフォンの熱が、胸の奥に残っているからだ。
 シャオレイの筆は自然と、恋の歌を生み出していた。メイレンに対抗するための、爪を研ぐのも忘れて。

「妖女でも書をつづるんだな」

 その声に、シャオレイは驚き、手にしていた筆を落としてしまった。

 宦官に扮したフェイリンが現れたのだ。その目は相変わらず冷たかった。

 シャオレイは顔をパッと輝かせ、「フェイリン様……!」と喜びの声をあげた。

 それを見て、フェイリンにはほのかなイラつきと、無自覚の喜びが入り交じった。

 シャオレイはフェイリンに駆け寄り、その腕に触れる。生きているぬくもりが伝わってきた。
「ああ、よかった……」

「――本当か?」

「もちろんですわ」

 シャオレイは、フェイリンに腕をするりと絡ませた。
 ちらりとフェイリンの漆黒の髪を見ると、彼と目が合ったので、にこりとほほ笑んだ。
(今日は腕を振り払わないわ。機嫌がいいのかしら?)

 だが、フェイリンは媚びたシャオレイを冷めた目で見ていた。歌妓の手練手管だと分かっているからだ。

 シャオレイは尋ねた。
「――あの遺体は誰なのですか?」

「死体など、金《かね》で手に入る」

「もう来てくださらないかと、思いましたわ」

「――残り2つの”予言”も当たったから、そなたの力を認めてやってもいい」
(仕込むには難しすぎるし、偶然にしては珍しすぎる。
しかも日付を正確に当てた。
不思議な女だ……。
だが、利用価値はある)

 2つの予言とは、先日シャオレイがフェイリンに教えたものだった。

『19日……天の赤き涙、宮を濡らす――』
『23日……遠き国より迷いし使い、門《かど》叩く――』
 19日に、赤い雨が降った。原因は、西から飛んできた赤い砂だ。
 そして23日には、行方不明のままだった遠い南の国の使者が、ようやく宮廷にたどり着いたのだ。

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