小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第8話 攻防戦の始まり(5/5)


 手持ち無沙汰のシャオレイは、琴の絃をなんとなく弾いていた。
(こんなどうでもいい男に、うっすらでも期待したなんてどうかしてたわ)
 ふと、シャオレイはサラサラと筆を走らせ始めたフェイリンに気づいた。フェイリンの美しい筆運びや墨の付け方に、シャオレイは思わず惹かれる。
(彼はどこかの貴族ね。ユン家かどうかは分からないけど)

 フェイリンはシャオレイの探るような視線に気づいて、冷たい目を向けた。
「指先に見とれていましたの。――できまして?」

 フェイリンは筆を置き、無言で歌詞を渡した。

 シャオレイは改めて、その繊細で美しい字に目を奪われた。だが、歌詞そのものは――
(何よ、ちっとも目新しくないじゃない)

 シャオレイは、フェイリンの横へ座った。
「フェイリン様、どうか凡庸な私めに教えてくださいませ。
私めの凡庸な歌詞と、どのように違うのでしょう?」

 フェイリンは、シャオレイの嫌みを感じ取ってじろりと見た。
「技巧の違いじゃない。誰しもが抱えてる、望郷の想いを書いたんだ」

 思いがけないフェイリンの言葉に、シャオレイは驚いた。
「望郷……?――故郷に帰りたいの?」

「――文化人たちは、遠くから都に来ている。
だから、その想いを表してやればいい」

 シャオレイは歌詞を見つめながら、しばらく考えていた。
「ふうん……。そんなものなの」

「そなたは帰りたくないのか?」

「帰りたくないわよ、あんなとこ」

 シャオレイの声の端に宿った苦味が、なぜかフェイリンの胸の奥に心地よく落ちた。

 シャオレイは、ぼんやりとうちわをあおぎながら続ける。
「あなたのことだから、私が歌妓だったって知ってるんでしょう?
あそこには尊大なお客もいたし、幼い頃は女将や師匠に叩かれていたわ。
他の青楼よりは遥かにマシだったけれど……。
まあ、タオジェンの河は懐かしいけどね。
子供の頃はスイスイ泳いで、男の子と一緒によく魚を獲ったっけ……」
(私の故郷は、ゼフォンだわ。
あの人の元に帰りたかったから、転生したんだもの……)

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