小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第9話 敗北の口づけ(3/4)


 フェイリンがふと気づくと、シャオレイにじっと見つめられていた。彼が混乱している間に、ミアルとの会話は終わっていたのだ。
 フェイリンは、顔をそむけて言った。
「悪い。忘れろ」

 フェイリンが身を起こそうとしたそのとき――すらりと伸びたシャオレイの脚が、彼の腰を絡め取った。

「……っ!?」
 フェイリンの動きが封じられる。

 シャオレイが余裕の笑みを浮かべていた。
「どこ、行くの?」

 次の瞬間、フェイリンはシャオレイから頭を抱え込まれて引き寄せられ、あらがう間もなく彼女に唇をふさがれた。

 シャオレイの指がフェイリンの髪に絡むと、そこから帽子が床に落ちた。

(何をしてる……振り払え、今すぐ)
 フェイリンの頭はそう命じていたが、体は石のように固まっている。

 女の力など、フェイリンには簡単に跳ねのけられるのに、力が入らない。それどころか、全身の力がどんどん奪われていく。
 フェイリンは、痛みには慣れていた。それは数え切れぬほど、与えられてきた。
 だが――こんな甘くて柔らかな熱を与えられたことは、フェイリンには生まれて初めてだった。
 やがて、フェイリンは力なく崩れ落ちた。
 彼に授けられたのは――”敗北の口づけ”だった。

 時間が止まったかのように、琴房には静けさが漂っていた。

 長椅子の上で、フェイリンはずっとシャオレイに覆いかぶさったままだった。

 ふたりの唇はすでに離れている。

(……どうしちゃったのかしら?)
 シャオレイは、フェイリンの肩をつんつんと指で突いてみた。

「――ッ!」
 弾かれたように、フェイリンの体が跳ねた。
 それから、フェイリンはシャオレイから顔を背けたまま、無言で立ち上がった。心なしか、彼の背中は丸まっている。

 シャオレイは不思議に思っていた。
(怒ったのかしら?
でも……フェイリンが口づけをねだったのよ?)

「ああ、ちょっと待って」
 シャオレイは、彼の袖をつまんで引き止めた。

 フェイリンは、ゆっくりとにらみながら振り向いた。――まるで、いじめられた野良犬のような目で。

 シャオレイは肩をすくめた。
(何よ、私がいじめたっていうの?)
 そして、手巾《しゅきん》※でフェイリンの口元をそっと拭った。 [※ハンカチ]

「……?」

 不審そうに眉を寄せたフェイリンへ、シャオレイは淡々と言った。
「私の口紅がついてたのよ。それに、髪も乱れてるわ。
宦官がそんな姿でうろついたら、目立つわよ」

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