小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第9話 敗北の口づけ(4/4)




 鏡の前に座ったフェイリンは、表情を固くしたまま、腕を組んでいた。恐ろしいほど、静かでおとなしい。

 そんなフェイリンの髪を、シャオレイはとかしていた。
(不気味だわ……。
まあ、いじめたといえばそうだけど。
でもちょっとやりすぎたかしら?)

 以前、フェイリンは”色仕掛けは通用しない”と、シャオレイを跳ねのけた。
 シャオレイはそのときは気にしていないと思っていたが、心の片隅では腹立たしかった。
 だから、つい仕返ししたくなったのだ。――逃げようとする彼を、はしたなく脚で捕まえて。

(……やっぱり効いてるじゃない、色仕掛けが)
 思わず、シャオレイの笑みがこぼれる。

「何がそんなにおかしい……?」
 フェイリンの鋭い視線が、鏡越しにシャオレイへ飛んできた。威圧のつもりだったが、迫力はなかった。

「ああ、”七夕の宴”が楽しみですのよ。さっき、出席者名簿が届いた知らせが来ましたから。
フェイリン様もぜひ、ご覧になってくださいませ」

「そのわざとらしい媚びはやめろ」

「あなたが不機嫌だからよ」
 シャオレイがけろりと言うと、フェイリンは再び黙り込んだ。

 シャオレイは手の中で滑る、彼の漆黒の髪を見た。
(この髪は、染めてるのかしら?
――まあ、今はどうでもいいわね。
彼の過去は)
 シャオレイは、器用な手つきで彼の髪を整えていく。

 その間、フェイリンの瞳はどこか遠くを見つめていた。
 遠い過去の、まだフェイリンが幸せだった子供の頃、よく母親に髪を結ってもらっていたことを思い出していた。
(母上とこのはしたない妖女は違う……。
――いや、俺はこの女に負けたんだ。もうあらがうまい)

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