小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第10話 誘う歌声(3/6)
◆
数日後、宮廷の一室で、軍議《ぐんぎ※》が開かれようとしていた。議題は、七夕の宴の警備体制だ。 [※軍事についての評議]
ゼフォンは会議室に向かう途中で、左羽林衛副将軍《さうりんえいふくしょうぐん》のルーにそっと声をかけられた。
「皇太后様より私的に進言がございました。
“陛下の御身を案じ、七夕の宴では影をお立てになってはいかがか”と」
ゼフォンの眉間にピクリと皺が寄った。
ルー将軍はそれ以上、何も言わなかった。彼は先帝からの老重臣で、皇太后とゼフォン親子を昔から案じている。
「影武者など、滑稽の極みだ。……下がれ」
ゼフォンの言葉にルー将軍は頭を下げて、去っていった。
その背を見ながら、ゼフォンは苦々しい顔をしていた。
(あやつが伝達したということは、影武者に反対ではないのだろう。
母上とルー将軍にとっては、予はまだ幼子《おさなご》なのだ)
軍議が始まり、武官が発言した。
「陛下。
先日の刺客騒ぎを踏まえ、今回は一層の厳重な警備を敷くべきかと存じます」
ゼフォンがうんざりして言った。
「刺客の遺体は見つかっておる。
城壁にも吊るしたのを皆も見たであろう。例年通りの警備で良い」
右羽林衛大将軍のラン・リーハイが、口を挟んだ。
「それでも、油断は禁物でございます。
宴の場には、常に6名の侍衛《じえい※》を帯同させてはいかがでしょう?」 [※皇帝のそばに仕えて護衛する人]
ゼフォンは、リーハイの思惑をすぐ察知した。
(皇帝を過剰に守らせ、その“無力さ”を天下に知らしめようというわけか)
普段はリーハイと対立しているルー将軍ですら、「私も、そのようにすべきかと存じます」と賛同した。
ルー将軍が賛同したのは、ただゼフォンの身を案じているからだ。そのことが、かえってゼフォンの胸をざわつかせる。
ゼフォンが低く言った。
「物々しい雰囲気を出せば、客人たちは息苦しさを感じ、場の空気が壊れる。
七夕の宴は風雅なひとときなのだ。
――警備は、例年通りにせよ」
「承知いたしました、陛下」
ずっと沈黙を守っていた左羽林衛大将軍が口を開き、深く頭を下げた。周りの者も、それに続いた。
◆
数日後、宮廷の一室で、軍議《ぐんぎ※》が開かれようとしていた。議題は、七夕の宴の警備体制だ。 [※軍事についての評議]
ゼフォンは会議室に向かう途中で、左羽林衛副将軍《さうりんえいふくしょうぐん》のルーにそっと声をかけられた。
「皇太后様より私的に進言がございました。
“陛下の御身を案じ、七夕の宴では影をお立てになってはいかがか”と」
ゼフォンの眉間にピクリと皺が寄った。
ルー将軍はそれ以上、何も言わなかった。彼は先帝からの老重臣で、皇太后とゼフォン親子を昔から案じている。
「影武者など、滑稽の極みだ。……下がれ」
ゼフォンの言葉にルー将軍は頭を下げて、去っていった。
その背を見ながら、ゼフォンは苦々しい顔をしていた。
(あやつが伝達したということは、影武者に反対ではないのだろう。
母上とルー将軍にとっては、予はまだ幼子《おさなご》なのだ)
軍議が始まり、武官が発言した。
「陛下。
先日の刺客騒ぎを踏まえ、今回は一層の厳重な警備を敷くべきかと存じます」
ゼフォンがうんざりして言った。
「刺客の遺体は見つかっておる。
城壁にも吊るしたのを皆も見たであろう。例年通りの警備で良い」
右羽林衛大将軍のラン・リーハイが、口を挟んだ。
「それでも、油断は禁物でございます。
宴の場には、常に6名の侍衛《じえい※》を帯同させてはいかがでしょう?」 [※皇帝のそばに仕えて護衛する人]
ゼフォンは、リーハイの思惑をすぐ察知した。
(皇帝を過剰に守らせ、その“無力さ”を天下に知らしめようというわけか)
普段はリーハイと対立しているルー将軍ですら、「私も、そのようにすべきかと存じます」と賛同した。
ルー将軍が賛同したのは、ただゼフォンの身を案じているからだ。そのことが、かえってゼフォンの胸をざわつかせる。
ゼフォンが低く言った。
「物々しい雰囲気を出せば、客人たちは息苦しさを感じ、場の空気が壊れる。
七夕の宴は風雅なひとときなのだ。
――警備は、例年通りにせよ」
「承知いたしました、陛下」
ずっと沈黙を守っていた左羽林衛大将軍が口を開き、深く頭を下げた。周りの者も、それに続いた。