小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第10話 誘う歌声(6/6)


 シャオレイはにこやかに、ゼフォンを迎えた。
「ゼフォンが来ると分かってたら、もっとめかしこんだのに」

「よい、カナリアはどんな姿でも美しいからな」

「ねえ、新しいお茶が手に入ったから寝殿で飲みましょう?」

「そうしたいが、これから母上の所に行かねばならぬ」

「そうなの……?」

 ガッカリしたシャオレイの頬を、ゼフォンが慰めるように撫でた。
「そなたの歌に魅かれて、ちょっと立ち寄ったのだ。
七夕の宴の準備は順調のようだな」

 シャオレイは、ゼフォンが疲れをにじませていることに気づいた。
(そういえば、軍議があったらしいけど……何か揉めたのかしら?)

 だが、シャオレイはそれには触れず、無邪気に歌い始めた。
「……もう飛び立たれてしまうのですね……
……小鳥は龍のごとくは翔べませぬ……」

 ゼフォンの背に、シャオレイの腕がそっと回される。
「……次は私を乗せてくださいませ……
……共に空を往《ゆ》きましょう……」

 ゼフォンは歌の意図を察知して、笑みを漏らした。
 ”共に空を往く”――つまり、シャオレイは共寝して”昇天”したいと誘っているのだ。

 シャオレイは歌いながら、ゼフォンへ体をすり寄せていた。彼女の髪がかすかに揺れて、香《こう》がゼフォンの鼻をくすぐった。
 甘ったるい声。
 密着する柔肌。
 小さな体に込められた、媚びでも義務でもない、ただの“夫への愛”。

 ゼフォンは、それを全身で感じ取っていた。彼の疲れもイラ立ちも、どこかへ消え去っていた。
「カナリア……」
 名前を呼ぶだけで、ゼフォンの喉が詰まりそうになる。
 ゼフォンはシャオレイに口づけを落として、「今宵また会おう」と言って去っていった。

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