小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第12話 計略は毒の香り
第12話 計略は毒の香り(1/6)
◆
ゼフォンは、恵慈宮《けいじきゅう》にいた。ゆったりと椅子に座り、茶を含んでいる。
皇太后は、うつむいたまま向かい側の長椅子に座っていた。軍議で不機嫌だったゼフォンの様子を、いち早くルー将軍が皇太后に知らせていたのだ。
皇太后がかすかに震える声で言った。
「七夕の宴は国事ではないでしょう?
ならば、フォンアルが出る必要など――」
フォンアル。
それは、ゼフォンの子供の頃の愛称だ。
いつものゼフォンなら、その呼び名にわずかな反発を覚える。だが、ゼフォンは肩の力をゆるめ、小さく息をついた。
「……だから、影武者を立てよ、と?」
「先日刺客が現れた以上、用心に越したことはないもの……」
皇太后には、母としての気遣いしかなかった。
その振る舞いは、普段ならゼフォンの胸をザワつかせ、チクリと痛ませる。だが、今日は穏やかだった。
カナリアの香とぬくもりと柔らかさが、まだゼフォンの体に残っている。耳の奥には、さっきまでのさえずりが、残響のようにこびりついていた。
それを思い出すだけで、ゼフォンの口元は自然とゆるんでいた。
ゼフォンは椅子から立ち上がり、皇太后のそばに寄り、肩をやさしく抱いた。
(そもそも母上は、予が即位したから皇太后に引き上げられたまで。
元々は側室付きの、内気な侍女でしかなかったのだ……)
「予はもう皇帝なのですよ?
大勢の兵を従えているゆえ、母上が案ずることはありません。
……七夕の宴でカナリアの歌でも聴けば、心も和むでしょう」
「カナリア姫が……?」
皇太后がそっとゼフォンを見上げた。
「ええ、カナリアは宴のために歌を準備しておりますから」
「まあ……あの子の歌は、本当に心に染みるものね」
皇太后は、柔らかくほほ笑んだ。目元には、シャオレイへの慈しみの色も浮かんでいた。
ゼフォンを愛し、癒してくれる女であれば、青楼出身であろうと皇太后は構わないのだ。
皇太后を見て、ゼフォンも静かにほほ笑んだ。
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ゼフォンは、恵慈宮《けいじきゅう》にいた。ゆったりと椅子に座り、茶を含んでいる。
皇太后は、うつむいたまま向かい側の長椅子に座っていた。軍議で不機嫌だったゼフォンの様子を、いち早くルー将軍が皇太后に知らせていたのだ。
皇太后がかすかに震える声で言った。
「七夕の宴は国事ではないでしょう?
ならば、フォンアルが出る必要など――」
フォンアル。
それは、ゼフォンの子供の頃の愛称だ。
いつものゼフォンなら、その呼び名にわずかな反発を覚える。だが、ゼフォンは肩の力をゆるめ、小さく息をついた。
「……だから、影武者を立てよ、と?」
「先日刺客が現れた以上、用心に越したことはないもの……」
皇太后には、母としての気遣いしかなかった。
その振る舞いは、普段ならゼフォンの胸をザワつかせ、チクリと痛ませる。だが、今日は穏やかだった。
カナリアの香とぬくもりと柔らかさが、まだゼフォンの体に残っている。耳の奥には、さっきまでのさえずりが、残響のようにこびりついていた。
それを思い出すだけで、ゼフォンの口元は自然とゆるんでいた。
ゼフォンは椅子から立ち上がり、皇太后のそばに寄り、肩をやさしく抱いた。
(そもそも母上は、予が即位したから皇太后に引き上げられたまで。
元々は側室付きの、内気な侍女でしかなかったのだ……)
「予はもう皇帝なのですよ?
大勢の兵を従えているゆえ、母上が案ずることはありません。
……七夕の宴でカナリアの歌でも聴けば、心も和むでしょう」
「カナリア姫が……?」
皇太后がそっとゼフォンを見上げた。
「ええ、カナリアは宴のために歌を準備しておりますから」
「まあ……あの子の歌は、本当に心に染みるものね」
皇太后は、柔らかくほほ笑んだ。目元には、シャオレイへの慈しみの色も浮かんでいた。
ゼフォンを愛し、癒してくれる女であれば、青楼出身であろうと皇太后は構わないのだ。
皇太后を見て、ゼフォンも静かにほほ笑んだ。