小鳥の爪―寵姫は2番目の恋に落ちる―
第1章 不死鳥
第1話 最愛の夫を守るため
第1話 最愛の夫を守るため(1/6)
皇帝――ダン・ゼフォンの紫微殿《しびでん》の寝所《しんじょ》には、彼の浅い呼吸音だけが響いていた。
ゼフォンは、血の気のない顔で寝台に力なく横たわっている。結い上げられた茶色がかった髪は、病のせいで艶が無くなっている。絹の寝衣《しんい》は胸元が緩み、痩せた鎖骨が覗いていた。
すぐそばには、カナリア姫――シャオレイが腰かけていた。彼女のゆるく波打った黒髪は、光に透けると、かすかに桃色がかっている。
シャオレイは、ゼフォンの右手を強く握りしめながら、自分に言い聞かせていた。
(氷のようなこの手も、じきに力強く温かかさを取り戻すわ……きっと)
その想いとは裏腹に、シャオレイの翡翠色の瞳から、涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。
「泣くなカナリア……予《よ》は朽ちたりせぬ……」
言葉とは裏腹に、ゼフォンの声はあまりにもか細かった。
シャオレイは死の予感を振り払うように、何度もうなずく。彼女の髪の、銀のかんざしが揺れていた。
だが――シャオレイの願いもむなしく、ゼフォンの琥珀色の瞳は光を失い、まぶたがゆっくりと閉じられた。
「ゼフォン……ゼフォン!!」
シャオレイの叫びが、寝所に響く。
外にいた妃や臣下たちも、ゼフォンの崩御《ほうぎょ》を嘆いていた。
だが、皇后――ラン・メイレンだけは、蒼玉《そうぎょく※》の瞳で静かに紫微殿の扉を見つめていた。 [※サファイア]
結い上げた艶やかな黒髪に鳳凰の冠をかぶり、我が子――15歳の第7皇子の細い肩を抱いていた。彼はメイレン譲りの蒼玉色の瞳から、静かに涙を流していた。
チェン国――ファンレン暦10年。
灰色の空の下、宮廷には粉雪が舞っていた。
皇帝――ダン・ゼフォンの紫微殿《しびでん》の寝所《しんじょ》には、彼の浅い呼吸音だけが響いていた。
ゼフォンは、血の気のない顔で寝台に力なく横たわっている。結い上げられた茶色がかった髪は、病のせいで艶が無くなっている。絹の寝衣《しんい》は胸元が緩み、痩せた鎖骨が覗いていた。
すぐそばには、カナリア姫――シャオレイが腰かけていた。彼女のゆるく波打った黒髪は、光に透けると、かすかに桃色がかっている。
シャオレイは、ゼフォンの右手を強く握りしめながら、自分に言い聞かせていた。
(氷のようなこの手も、じきに力強く温かかさを取り戻すわ……きっと)
その想いとは裏腹に、シャオレイの翡翠色の瞳から、涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。
「泣くなカナリア……予《よ》は朽ちたりせぬ……」
言葉とは裏腹に、ゼフォンの声はあまりにもか細かった。
シャオレイは死の予感を振り払うように、何度もうなずく。彼女の髪の、銀のかんざしが揺れていた。
だが――シャオレイの願いもむなしく、ゼフォンの琥珀色の瞳は光を失い、まぶたがゆっくりと閉じられた。
「ゼフォン……ゼフォン!!」
シャオレイの叫びが、寝所に響く。
外にいた妃や臣下たちも、ゼフォンの崩御《ほうぎょ》を嘆いていた。
だが、皇后――ラン・メイレンだけは、蒼玉《そうぎょく※》の瞳で静かに紫微殿の扉を見つめていた。 [※サファイア]
結い上げた艶やかな黒髪に鳳凰の冠をかぶり、我が子――15歳の第7皇子の細い肩を抱いていた。彼はメイレン譲りの蒼玉色の瞳から、静かに涙を流していた。
チェン国――ファンレン暦10年。
灰色の空の下、宮廷には粉雪が舞っていた。