小鳥の爪―寵姫は2番目の恋に落ちる―
第1話 最愛の夫を守るため(2/6)
◆
すぐに宮廷は、ゼフォン――先帝を追悼する白布で飾られた。
皇帝に即位した第7皇子が、玉座の背後を不安げに振り返った。すだれの向こうには、皇太后となったメイレンが座して、ほほ笑んでいる。
メイレンによる、垂簾政治《すいれんせいじ※》が始まったのだ。 [※皇太后が幼帝に代わって行なう政治]
チェン国は実質、ラン家の物になった。
◆
ゼフォンの死から7日経った。
宮廷の外れの蔵書庫には、かすかにシャオレイの歌声が響いている。
シャオレイは白い喪服に身を包み、毎日ゼフォンが好きだった歌を口ずみながら泣いていた。
(聞いてくれる人のいない歌など、何の意味があるの……?)
青楼《せいろう※》の歌妓《かぎ※※》だったシャオレイは、ゼフォンに見初められて5年前に入宮した。 [※妓楼、遊廓][※※宴席で歌をうたう女]
初めて会ったときのゼフォンの悠然とした笑みが、今でもシャオレイの目に浮かぶ。
だが、悲しみに浸る間もなく、シャオレイは扉の外に人の気配を感じた。思わず本棚の後ろに隠れると、喪服姿のメイレンとその弟――ラン・ジュンが部屋に入ってきた。
ジュンの、濃紺がかった黒髪に、燐灰石《りんかいせき※》の瞳。メイレンとよく似た端正な顔立ちに、獣じみた鋭さを宿していた。 [※鮮やかな青い石。ネオンブルーアパタイト]
ジュンが「姉上、話が違いますぞ!」と、怒りをあらわにした。
「先帝を葬《ほうむ》れば、俺を摂政《せっしょう※》にしてくださると言ったではないか!」 [※皇帝に代わって政治を行なう者]
その瞬間、シャオレイの心臓が凍りついた。
(先帝――ゼフォンを殺した!?)
メイレンは荒れる弟の胸を、さすってなだめた。
「ジュンの協力には感謝しておる。
だが……年長の皇子たちを差し置いて、年若い我が子を即位させるだけでも、骨が折れたのだ。
臣下たちが団結して異を唱えたら、どうにもならないことを知っているだろう?
陛下にはそなたを、叔父として敬わせるから……。な?」
ジュンは黙り、仕方なくうなずいた。
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すぐに宮廷は、ゼフォン――先帝を追悼する白布で飾られた。
皇帝に即位した第7皇子が、玉座の背後を不安げに振り返った。すだれの向こうには、皇太后となったメイレンが座して、ほほ笑んでいる。
メイレンによる、垂簾政治《すいれんせいじ※》が始まったのだ。 [※皇太后が幼帝に代わって行なう政治]
チェン国は実質、ラン家の物になった。
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ゼフォンの死から7日経った。
宮廷の外れの蔵書庫には、かすかにシャオレイの歌声が響いている。
シャオレイは白い喪服に身を包み、毎日ゼフォンが好きだった歌を口ずみながら泣いていた。
(聞いてくれる人のいない歌など、何の意味があるの……?)
青楼《せいろう※》の歌妓《かぎ※※》だったシャオレイは、ゼフォンに見初められて5年前に入宮した。 [※妓楼、遊廓][※※宴席で歌をうたう女]
初めて会ったときのゼフォンの悠然とした笑みが、今でもシャオレイの目に浮かぶ。
だが、悲しみに浸る間もなく、シャオレイは扉の外に人の気配を感じた。思わず本棚の後ろに隠れると、喪服姿のメイレンとその弟――ラン・ジュンが部屋に入ってきた。
ジュンの、濃紺がかった黒髪に、燐灰石《りんかいせき※》の瞳。メイレンとよく似た端正な顔立ちに、獣じみた鋭さを宿していた。 [※鮮やかな青い石。ネオンブルーアパタイト]
ジュンが「姉上、話が違いますぞ!」と、怒りをあらわにした。
「先帝を葬《ほうむ》れば、俺を摂政《せっしょう※》にしてくださると言ったではないか!」 [※皇帝に代わって政治を行なう者]
その瞬間、シャオレイの心臓が凍りついた。
(先帝――ゼフォンを殺した!?)
メイレンは荒れる弟の胸を、さすってなだめた。
「ジュンの協力には感謝しておる。
だが……年長の皇子たちを差し置いて、年若い我が子を即位させるだけでも、骨が折れたのだ。
臣下たちが団結して異を唱えたら、どうにもならないことを知っているだろう?
陛下にはそなたを、叔父として敬わせるから……。な?」
ジュンは黙り、仕方なくうなずいた。