恋心はシェアできない
「でも、ちゃんと見てる人がいるっていうのは忘れないで欲しいけどな」

「…………」

私はなんて答えたらいいのかわからず、俯いてしまう。

「咲希?」

「……私ね……」

「うん」

「その……他に特に、できることがないから……なるべく手伝えることがあればやりたいし……気遣いも人並みにはできたいなって……」

ただでさえ平凡な自分が好きになれないのに、気遣いくらいできなきゃ、ほんとに自分が嫌になっちゃいそうだから。

「そんなことないでしょ。みんな自分のことで精一杯の人多いしさ。咲希みたいに気遣いできる人のが少ないよ。俺も見習わないとなって」


碧生は青になった信号を見て再び、ハンドルを握り直す。


「碧生が私を見習うとこなんてないよ」

突き放したような言い方になってしまった。

この二年、自分はおろか誰も気づいていないようなことを碧生がちゃんと見ていてくれたことが嬉しいくせに、私は捻くれ者だ。ほんと可愛くない。

「ま、そう言う意地っ張りなところは見習わないようにしなきゃな」

「いきなりディスってこないで」

「あはは。また怒られた」

(そんな風に笑わないでよ)

(また好きが一個増えたじゃない……)

私は彼の屈託のない笑顔がなんだか見ていられなくて、そっぽを向いた。

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