恋心はシェアできない


「はぁ……」

私はベッドに潜り込んでからもなかなか眠れずにいた。

(あんなに楽しみにしてたお出かけだったのにな)

帰りの車の中、碧生はほとんど話さなかったし、私も窓から外を眺めながら寝たふりをした。

それでも『タマコの家』に帰れば、碧生は翔太郎や梓に私と食べたうどんや神社のことを話したり、私にも普段通り会話を振ってきたりした。


それが、大人な対応だとわかっているのに碧生から正式に距離を置かれたような気になって、ずっと涙を堪えるのに必死だった。


──『どうでもいいけど』

松田さんの名前を出したときの碧生の顔が忘れられない。はっきり言って余計なことを言った自覚はある。

でもそれと同時に、はっきりとわかったのは“碧生は私を同期として見ていて、それ以上でもそれ以下でもないと言うこと”を改めて実感した。


「……告白どころか、その前にフラれちゃった」


私は勝手に流れ出てくる涙を手の甲で拭う。

「それに……碧生と一緒にいられるのもあと少し……なんだよね」

内示が出たと言うことは辞令は一ヶ月以内、転居を伴う場合はうちの会社はもう少し早い。

思い返せば碧生には助けて貰ってばかりだった。そして、私は何一つ碧生に返すことができてない。


(私ができること……やらなきゃ後悔すること……)

私はベッドから起き上がると、パソコンの電源をつける。


「企画だけは……自信をもって完成させたい」

少しでも変わるために。
少しでも自分を好きになれるように。

私はスマホのデータをパソコンに送ると、すぐにキーボードを叩き始めた。

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