恋心はシェアできない


それから二週間が瞬く間に過ぎ去った。

会社では碧生の辞令が発表され、彼は得意先の引き継ぎでほぼ事務所にはいない日々が続いている。送別会などもあるのか、ここ最近は『タマコの家』のグループLINEに夕食は要らない旨が毎日送られてきている。

(忙しいんだな)

更衣室で着替えをしながら、震えたスマホを見れば案の定、今日も碧生は夕食はいらないようで、梓たちは外食で済ますみたいだ。

(私も今日もカフェいこ)

この二週間、私は就業後も休日も駅前の喫茶店で企画書を詰める日々を送っている。

「……今日は何食べようかな……」

あの日以降も、碧生は会えば挨拶もするし土日は『タマコの家』で料理も梓達に振る舞っているみたいだ。私も何度もLINEでご飯には誘われたが、企画を理由にずっと断っている。

(このまま避けてても意味ないのに……)

そう頭ではわかってるのに、結局私は彼に何のアクションも起こせずにいる。


「──咲希ちゃん」 

(え?)

聞き覚えのある声に振り返れば、ラウンド眼鏡がトレードマークの翔太郎くんが片手を上げていた。


「あ……翔太郎くん」

「お疲れ様」

私を追いかけてきたらしく、翔太郎くんの息はわずかに上がっている。


「駅まで一緒していいかな?」

「うん、勿論。梓は?」

「今日はもう家に着いてる」

「そうなんだ」

「……咲希ちゃんは今夜も企画詰め?」

私は小さく頷く。

「締め切り、来週だから」

「そう」

翔太郎くんは長い足をゆっくり動かして、私に歩幅を合わせてくれている。


「……碧生から聞いてるかな。あいつが引っ越し早まったこと」

「え……っ、……いつ?」
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