神様はもういない
 かくして、私は幽霊である元婚約者の湊と暮らすことになった。
 どうしてこうなったのかは正直分からない。
 幽霊湊と過ごすうちに、なんとなく彼の幽霊としての存在ルールのようなものはわかってきた。
 まず、湊は自分が幽霊であることを知らない。
 ずっと私と同棲してきたと思っている。
 彼が亡くなってから起きた出来事は、知らない間に彼の記憶に流れ込んでいるようだ。だから私が転職したことを知っていたが、どうして知っているかというところまで考えると、よく分からなくなるらしい。
 そして彼は、幽霊なのにモノに触れることができる。ちゃんと体温もあって温かい。
「なあなあ俺、この家から出られないみたいだ」
 湊が家の玄関から出ようとしたところで、「これ以上進めないよー」と嘆いていた。
 彼はこの家から出ることができない。湊が出てきてから誰も家に呼んでいないので試したことはないが、おそらく私以外のひとには見えないと思われる。
 想像していた“幽霊像”とはだいぶ違った幽霊だ。なんだか本当に生きた人間のよう。だけど、この家から出られないし、夜、暗くなった窓の前に立っても彼は窓に映らない。本人は気づいていないようだけど、私はしっかり確認済みだった。
 幽霊だけど、幽霊じゃない。
 そんな中途半端な幽霊のなりそこないのような存在である湊と、どうやって過ごしていけばいいか——湊が現れて一週間経った今でも、分からない。
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